社会派推理小説の一大ブームを築き上げた松本清張 没後30年特集で、映画化作品を堪能する

社会派推理小説の一大ブームを築き上げた松本清張 没後30年特集で、映画化作品を堪能する

映画化第1作『顔』など、清張作品がズラリ放送される「没後30年特集」

  • 没後30年 松本清張原作特集

社会派推理小説の一大ブームを築き上げた松本清張
没後30年特集で、映画化作品を堪能する

2022/08/01 公開

社会派推理小説の一大ブームを築き上げた、清張文学の神髄がわかる作品群

今年の8月4日で没後30年を迎える、作家・松本清張。彼が書いた小説のジャンルは処女作「西郷札」(1951年)をはじめとする歴史・時代小説、「日本の黒い霧」(1960年)、「昭和史発掘」(1964~71年)など近現代史の暗部に斬り込んだノンフィクションなど多岐にわたるが、何と言っても社会派推理小説の大家としてその名を知られている。

彼はトリックや本格推理を底流に置きながら、事件に関わった人々の人間ドラマをリアルな社会背景を織り込んで描き、推理小説を単なる謎解きから読み応えのある文学へと押し上げて、1950年代後半から社会派推理小説の一大ブームを築き上げた。映画化された作品も多く、今回の特集でも放送される岡田茉莉子主演の『顔』(1957年)を皮切りに、犬童一心監督の『ゼロの焦点』(2009年)まで映画36本が作られている。『かげろう絵図』(1959年)と『無宿人別帳』(1963年)は時代劇だが、他はすべて推理またはサスペンス映画だ。

『無宿人別帳』は、佐田啓二、三國連太郎、渥美清ら豪華キャスト出演の時代劇

その松本清張ものを得意とした映画監督が、『張込み』(1958年)、『砂の器』(1974年)、『鬼畜』(1978年)などの傑作をはじめ、清張作品を8本手掛けた野村芳太郎。1978年には映画・テレビの企画制作を目的とする霧プロダクションを松本清張自らが野村監督らと創設し、彼らは『わるいやつら』(1980年)、『疑惑』(1982年)、『迷走地図』(1983年)をこのプロダクションで制作している。

今回の『松本清張 没後30年特集』で放送されるラインナップは、松本清張が最も脂がのっていた時期に発表した小説の映画化作品ばかり。清張文学の神髄がわかる作品群になっている。

上司の汚名を晴らすため、会社員が「巨悪」に挑んでいく『眼の壁』

『眼の壁』(1958年)は佐田啓二主演のミステリー。監督は佐田とのコンビで『君の名は』シリーズ(1953~54年)をヒットさせた、メロドラマの巨匠・大庭秀雄。大会社の会計課長が自殺し、彼を罠にはめた犯人を捜すために部下の佐田啓二が行動を開始する。その行く先々で起こる殺人事件に鳳八千代扮する金融業者の美人秘書が絡んでくるという展開だ。渡辺文雄、多々良純、西村晃といった、くせ者揃いの脇役陣も魅力的な1本である。

『霧の旗』では、倍賞千恵子が復讐に燃える女性を演じた

『霧の旗』(1965年)は、山田洋次監督が唯一自分で脚本を書いていない監督作。野村芳太郎の助監督だった山田洋次は、野村監督の『ゼロの焦点』(1961年)と『砂の器』(脚本執筆は1962年だが、映画は1974年に公開された)の脚本を、橋本忍と共同で執筆した。特に『ゼロの焦点』では約2か月、橋本家に通って脚本を書き続け、そこから学ぶことは多かったという。『霧の旗』はその橋本忍が単独で書いた脚本を、そのまま使っている。殺人容疑で逮捕された兄の無実を信じる倍賞千恵子演じるヒロインが、兄の弁護を滝沢修扮する高名な弁護士に頼むが、弁護士は多忙と弁護料の高さを理由に依頼を断る。ヒロインの兄は死刑判決を受けて、獄中で病死。やがて上京したヒロインは、弁護士に復讐を開始する。弁護士を逆恨みした冷徹な悪女を、倍賞が暗い情念を湛えて演じているのが異色。『男はつらいよ』シリーズのさくら役とはまったく違った、山田&倍賞コンビの代表作である。

犯人の鉄壁のアリバイを、刑事たちが緻密なリサーチで崩していく『点と線』(放送はカラーです)

松本清張映画の映画会社別の内訳は、松竹19本、東宝8本、大映4本、日活2本、東映2本、ニュー東映1本。そのなかの東映作品の一つが『点と線』(1958年)である。原作は旅行雑誌「旅」に連載された、時刻表トリックの元祖と言われる小説。ある心中事件に汚職の疑惑が絡んでくる内容だが、心中した男女を東京駅のホームで目撃できる時間帯が、わずか4分間しかないところに時刻表トリックのポイントがある。事件を捜査するベテラン刑事役の加藤嘉が、完全犯罪を目論む犯人のアリバイをいかに崩すかが見どころで、監督がセミ・ドキュメンタリータッチの『警視庁物語』シリーズで知られる小林恒夫だけに、理詰めで容疑者を追い込んでいく、テンポのいいミステリーになっている。

『風の視線』では、孤独な男女5人の揺れ動く感情を映し出す


若き検事と、容疑者の妻の危険な恋の行方を描いた『波の塔』

ほかにも今回の特集では、桑野みゆきと有馬稲子という、2人の美女に翻弄される検事を津川雅彦が演じた、中村登監督の『波の塔』(1960年)。佐田啓二を中心に奈良岡朋子、新珠三千代、岩下志麻など5人が不倫関係に揺れる男女を演じた川頭義郎監督の『風の視線』(1963年)。殺人容疑者の岡田茉莉子と彼女を弁護した山﨑努扮する弁護士との愛憎を映した、渡邊祐介監督の『黒の奔流』(1972年)。1956~58年に連載された小説を、三村晴彦監督が野村芳太郎、加藤泰、仲倉重郎と共に脚色した、孤独な青年の復讐劇『彩り河』(1984年)などが放送される。ある事件に関わったことで運命を狂わされた人々の、愛と哀しみが描出された作品が多いが、映画を観れば「罪」が介在した人間の苦悩には、時代が違ってもさほど変わりがないことに気付くはず。その普遍的な人間の在り様を、ミステリーの形を借りて描いたところに、松本清張作品の時代を超えた魅力があるのだ。

文=金澤誠

金澤誠●映画ライター。日本映画を主に、「キネマ旬報」、時事通信、劇場パンフレットなどで執筆。これまで1万人以上の映画人に取材している。「日刊ゲンダイ」誌上で「新・映画道楽 体験的女優論 スタジオジブリ鈴木敏夫」を連載中。また取材・構成を手掛けた「音が語る、日本映画の黄金時代」(河出書房新社刊)が発売中。

<放送情報>
顔(1957年)
放送日時:2022年8月1日(月)18:15~、19日(金)8:45~

眼の壁
放送日時:2022年8月2日(火)18:15~、20日(土)7:00~

波の塔
放送日時:2022年8月3日(水)18:00~、20日(土)9:00~

無宿人別帳
放送日時:2022年8月4日(木)18:15~、24日(水)8:30~

風の視線
放送日時:2022年8月5日(金)18:30~、25日(木)8:45~

霧の旗
放送日時:2022年8月9日(火)18:00~、26日(金)8:30~

内海の輪
放送日時:2022年8月10日(水)18:00~、16日(火)3:15~

黒の奔流
放送日時:2022年8月11日(木)18:15~、17日(水)3:15~

彩り河
放送日時:2022年8月12日(金)18:15~、22日(月)8:30~
チャンネル:衛星劇場

点と線
放送日時:2022年8月4日(木)14:00~、19日(金)8:25~
チャンネル:WOWOWプラス

※放送スケジュールは変更になる場合があります

※衛星劇場では9月に下記作品を放送予定。
張込み
わるいやつら
ゼロの焦点
影の車
砂の器 デジタルリマスター版
球形の荒野
鬼畜
疑惑
天城越え

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