イタリア産西部劇＝マカロニ・ウエスタン！
世界を魅了したセルジオ・レオーネの傑作3本に迫る

「マカロニ・ウエスタン」という一世を風靡したジャンルがある。アメリカではなく、イタリアで作られた西部劇。そのブームを世界中で巻き起こした映画監督こそ、セルジオ・レオーネ。生涯で残した映画は多くないものの、どの作品も力強い魅力に満ちていて、いまも根強いファンがいる。わたしも大ファンだ。今回は、彼が監督したマカロニ・ウエスタンの傑作3本をご紹介したい。

クリント・イーストウッドと共にマカロニ・ウエスタンの魅力を世界に知らしめた『荒野の用心棒』

まずはじめは、『荒野の用心棒』(1964年)。この映画こそ、マカロニ・ウエスタンの魅力を世界中に知らしめた記念碑的な作品。誰もが耳にしたことのある抒情的な音楽や、それまでの西部劇とは一線を画すニヒルな主人公像。ほかにも、後世に語られるべきトピックスはいっぱいある。でも、なにより特筆しなければいけないのは、主役だろう。

本作の主演はクリント・イーストウッド。スター俳優として世界中の映画ファンを魅了し、90歳を超えたいまも映画監督としても第一線で活躍している。このイーストウッドを抜擢して、超人気映画俳優に押し上げたのが、なにを隠そう、『荒野の用心棒』なのだ。

当時、イーストウッドはTVドラマでは活躍していたものの、ハリウッド映画ではチャンスがなく、俳優として伸び悩んでいた。そんな時に、レオーネ監督が彼の魅力を最大限に引き出してみせたのだ。ちなみに、この頃のイタリア製の西部劇はまだまだマイナーで、イーストウッド自身もうさんくさいと思いながら出演を決意した、という逸話もある。

でも、観てみれば一目瞭然。『荒野の用心棒』は無類におもしろく、それまでになかった活劇になっている。アメリカとメキシコの国境付近の町に流れ着いた一人の名もなきガンマン。その町は二つの組織によって二分され、住民たちは支配されていた。対立し合うそれぞれのボスの間を渡り歩いて、ガンマンはいつのまにか漁夫の利でひと財産を稼いで町を去っていく。

このストーリーを聞いて、ピンときた方は映画通。そう、黒澤明監督『用心棒』(1961年)のリメイクなのだ。レオーネ監督は、三船敏郎の役をイーストウッドのガンマンに置き代えて、痛快な西部劇にしてみせたのだ。

己の力で未来を切り拓こうとする男たちの生き様が胸を打つ「ドル箱3部作」

次にレオーネ監督が放ったのが、『夕陽のガンマン』(1965年)。前作の大ヒットを受けて、再びイーストウッドを主演に迎えている。賞金稼ぎ、英語でバウンティ・ハンターと呼ばれる男たちを描いた映画だ。本作は前作よりも製作費が膨らんで、とにかくストーリーがやたらにおもしろい。2人の早撃ちガンマンの賞金稼ぎが、無法な強盗集団と絡んで、三つ巴のバトルを繰り広げる。

裏をかいたと思えば今度は裏をかかれ、寝首をかき、寝首をかかれ、最後には誰が生き残るのか？いま観ても、まったく先が読めない練りに練られた脚本。イーストウッドは寡黙だけど、ちょっとルパン三世っぽいところのあるキャラクターを嬉々として演じている。レオーネ監督のマカロニ・ウエスタンはドライなタッチが魅力だけど、本作は最後の最後にちょっとだけウェットなドラマが華を添えて、物語に味わいを与えている。

『荒野の用心棒』に続き、本作でも必見なのが、オープニング・タイトルの格好よさ。名匠エンニオ・モリコーネの音楽に乗せて、乾いた銃声と共にクレジットが決まっていく。この『夕陽のガンマン』は、私がもっとも好きなレオーネ西部劇だ。

最後は、『続・夕陽のガンマン／地獄の決斗』(1966年)。邦題では『続』と付けられているけど、『夕陽のガンマン』とはストーリー的なつながりはない。英題は、『THE GOOD, THE BAD AND THE UGLY』。つまり、「善玉、悪玉、卑劣漢」。この名が表す通り、クセ者3人が主人公で、善玉をイーストウッドが演じている。独立独歩、誰にも頼らず自分の才覚だけで時代を駆け抜ける男たち。その人生が愉快に交錯する冒険活劇だ。

レオーネ監督が立て続けに作った『荒野の用心棒』、『夕陽のガンマン』、『続・夕陽のガンマン／地獄の決斗』。この3作は当時、「ドル箱3部作」と呼ばれた。それほど人気を博して稼いだということだ。どれから観てもおもしろいし、マカロニ・ウエスタンが当時世界中で人気だった理由がわかる。

『続・夕陽のガンマン～』がこれまでと違うのは、レオーネ監督の力量を認めた各国が巨額の製作費を投じ、アメリカの南北戦争を真っ向から描いていること。とんでもない量の爆弾が炸裂し、大勢のエキストラが出演している。スペクタクル史劇ともいえる。

でも、やっぱり魅力的なのは主役の男3人。他人のことなんか1ミリも信用していない。利害が一致すれば手を組むけど、最後に頼れるのは自分一人。アメリカの価値観が分断を呼び、内戦が起きていた時代だからこそ、無頼の男たちの生き様がキラキラと輝く。

今回紹介した3本はどれも、自分の力で未来を切り拓こうとする者たちの物語だ。それは、先行きが不透明ないまの日本でも、多くの人の心に活力を注入してくれることだろう。よし、明日もうちょっと頑張ってみようかな、と。

文＝入江悠

入江悠●1979年生まれ。映画監督。監督作に「SRサイタマノラッパー」シリーズ、『日々ロック』(2014年)、『ジョーカー・ゲーム』(2015年)、『22年目の告白 -私が殺人犯です-』(2017年)、『AI崩壊』(2020年)、『聖地X』(2021年)など。

＜放送情報＞
荒野の用心棒
放送日時：2022年10月8日(土)12:00～、30日(日)6:15～

（吹）荒野の用心棒
放送日時：2022年10月13日(木)18:45～

夕陽のガンマン
放送日時：2022年10月8日(土)13:50～、30日(日)8:00～

（吹）夕陽のガンマン
放送日時：2022年10月13日(木)20:30～

続・夕陽のガンマン／地獄の決斗
放送日時：2022年10月8日(土)16:15～、30日(日)10:30～

（吹）続・夕陽のガンマン／地獄の決斗
放送日時：2022年10月13日(木)22:15～
チャンネル：WOWOWプラス

※放送スケジュールは変更になる場合があります