強くてカッコよくて頼りになるだけじゃない、天海祐希の存在感!(『柔らかな頬』)

カッコいい役だけに収まらない奥深さ
コメディやシリアスで見せる天海祐希の凄みに迫る

2024/02/26 公開

天海祐希は強くてカッコよくて頼りになる。そう思っている人は少なくないはずだ。

宝塚歌劇団月組トップスターとして脚光を浴びた彼女は、映像の世界でもカッコいい役を演じることが多い。テレビドラマ「女王の教室」で演じた鬼教師・阿久津真矢はインパクトがあり過ぎてちょっと怖かったけれど、警視庁捜査一課「特別犯罪対策室」の室長・大澤絵里子に扮した「BOSS」の彼女はクールでしなやか。部下のクセモノ刑事たちを束ねるその手腕、温もりも感じさせる器の大きなキャラに魅了された人も多いに違いない。

さらに、「緊急取調室」でもひと癖もふた癖もある凶悪犯たちを取り調べでオトす執念の刑事・真壁有希子を熱演。口をなかなか割らない犯人と対峙する前に、自分の頬を叩きながら発する「面白くなってきたじゃない」という決めゼリフも話題に。カッコいい彼女が多くのファンから支持されていることは、「理想の上司ランキング」で常に上位にいるのを見れば明らかだ。

そんな天海の映画デビュー作は、意外にも日米合作のサイコサスペンス『クリスマス黙示録』(1996年)。原作は多島斗志之の同名小説だが、米シアトルで撮影された本作は、監督をはじめとするスタッフとキャストの多くが欧米人。シアトルの連続爆破殺人事件に巻き込まれる日本の刑事・杉村葉子に扮した天海の英語のセリフも新鮮で、FBIの特別捜査官サラに扮したロリー・ペティとの息の合った掛け合いがドラマのスリルと緊張感を高めていた。

天海の映画デビュー作となった日米合作の『クリスマス黙示録』

と、ここまで女性も憧れるカッコいい天海の主演作を紹介してきたが、彼女の女優としての魅力やスゴさはもちろんそれだけではない。

観る者をほっこりさせるコメディエンヌとしての天海祐希

「女王の教室」、「家政婦のミタ」などの脚本家・遊川和彦の映画監督デビュー作『恋妻家宮本』(2017年)では、一人息子が結婚し、50歳にして夫との2人きりの生活を初めて経験することになるヒロインの美代子をコミカルに熱演。夫に扮した阿部寛との会話もとても自然で、酔ってソファで眠ってしまっているシーンなどでは刑事モノとは違う、素に近いような天海を見ることができて、親しみがより深まったものだ。

『老後の資金がありません!』(2021年)の天海に爆笑しながら、彼女が演じた篤子に降りかかる老後の資金問題を自分の未来と照らし合わせた人も多いのではないだろうか?けれど本作ではそんな深刻なテーマを、ドタバタと駆けずり回る天海の持ち前の明るさが払拭する。家計に無頓着でのんきな夫(松重豊)や義母(草笛光子)との噛み合わない会話も楽しくて、天海のコメディエンヌとしての才を堪能できる。

『最高の人生の見つけ方』(2019年)では、天海のその根明なキャラがタッグを組んだ吉永小百合との化学反応でさらなる輝きを放っていた。ジャック・ニコルソンとモーガン・フリーマンが共演した、同名のハリウッド映画が原案の本作。天海が扮したマ子は、会社の社長として人生のほとんどの時間を仕事に捧げてきたが、ある日、余命を宣告される。そんな彼女が、自分と同じように余命宣告を受けた、家庭一筋で生きてきた主婦・幸枝(吉永)と病院で出会い、入院していた少女が書いた「死ぬまでにやりたいことリスト」を1つずつクリアする旅を実行に移していく。

余命宣告をされた女性2人が、ある少女の「死ぬまでにやりたいことリスト」を実行していく『最高の人生の見つけ方』

勝ち気で少々傲慢なマ子が、臆病で引っ込み思案の幸枝をぐいぐい引っ張りながら、自身も大切なことに気づいていく姿が観る者の心もほっこりさせる。年上の幸枝にも構わずタメ口で、少女のリストに挑戦したいという彼女の願いを聞いて「私も、それ乗った!」と言ったり、「旦那からも病気からも逃げてるだけじゃない!」と言い放つところも清々しくて、強くて明るいイメージの天海だから自然な言葉となって耳に届く。人生初のスカイダイビングのシーンで変顔も気にせず絶叫したり、ももいろクローバーZのライブで吉永と一緒に歌ったり踊ったりする彼女の満面の笑顔が、生きることの楽しさや幸福感を伝えていた。

ももいろクローバーZのライブにもノリノリで参加した(『最高の人生の見つけ方』)

大作『柔らかな頬』のクライマックスで役者としての真髄を目撃せよ!

突き抜けた強さと明るさ。天海を象徴するそれらの要素を封印した、挑発的な映画もある。桐野夏生の直木賞受賞作を、『誘惑者』(1989年)、『ナースコール』(1993年)、『ロマンス』(1996年)などの長崎俊一監督が映画化した3時間22分の大作『柔らかな頬』(2001年)だ。

本作で天海が演じたカスミと夫の道弘(渡辺いっけい)との関係はすでに冷えきっていて、夫の得意先の会社員・石山(三浦友和)と不倫関係にある彼女は、彼と一緒になれるなら夫も子どもも捨てていいと思っている。もちろん、普段のカスミはそんなことを微塵も感じさせないが、笑顔に乏しく、どこか憂い顔。こんな天海は見たことがないと思う人もいるかもしれないが、だからこそおもしろい!

夫ではない男を愛した主人公が、失踪した娘を捜し続ける『柔らかな頬』

不倫ドラマかと思いきや、そこはミステリーの女王・桐野夏生ならではの先の読めない展開。北海道の石山の別荘に夫と2人の娘、石山の妻子と一緒に出かけたカスミは、みんなが寝静まったその晩に石山と肌を重ねる。ところが、翌朝目を覚ますと娘の有香が失踪していて、どれだけ手を尽くしても見つからない。そして4年後。有香がいなくなった日と毎月同じ日に、別荘の管理人や現地の駐在所に電話をかける彼女と夫との溝はさらに深まり、連絡が取れなくなった石山が離婚したという話も人づてに聞く。

進展があったのは、カスミが夫と一緒に事件を扱うテレビ番組に出演した時。テレビを見ていた小樽に住む女性から、「近所に住む男の人が『ユカ』と呼んでいた幼い少女がその男の人に全然似てなくて、今テレビに出ているお母さんに似ている」という情報が入ったのだ。

その連絡を聞いて、カスミの顔は一瞬固まり、よく見ると動揺した瞳が小刻みに揺れている。そこから北海道に向かい、捜査の協力を申し出た、胃がんに冒され余命幾ばくもない元刑事の内海(松岡俊介)と一緒に有香の行方、事件の真相に迫るカスミの旅が始まるが、クライマックスに向かうに従って自身の内面と向き合い、葛藤する彼女を繊細に体現した天海に目が釘づけになっていく。いったいドラマの最後にはどんな結末が待っているのか?その時、天海はどんな顔をしているのか?それを味わえるのは、超長尺の本作にじっくりのめり込んだ人だけだ。

クライマックスに向けて揺れるカスミの心を繊細に体現した天海の表情に注目(『柔らかな頬』)

このテキストを書いている2024年2月初旬の段階では、天海祐希の新しい主演作の情報は聞こえてこないが、近い未来に私たちの心をときめかせるニュースがきっと発表されるはずだ。公開が延期になったままの劇場版『緊急取調室 THE FINAL』の続報と共に、彼女の次なる一手を待ちたい。

文=イソガイマサト

イソガイマサト●映画ライター。独自の輝きを放つ新進女優、ユニークな感性と世界観、映像表現を持つ未知の才能の発見に至福の喜びを感じている。「DVD & 動画配信でーた」「J Movie Magazine」「スカパー! TVガイド」「ぴあアプリ」「MOVIE WALKER PRESS」や劇場パンフレットなどで執筆。映画やカルチャー以外の趣味は酒(特に日本酒)と食、旅と温泉めぐり。

<放送情報>
クリスマス黙示録(字幕版)
放送日時:2024年3月10日(日)12:30~、16日(土)23:30~
チャンネル:東映チャンネル

最高の人生の見つけ方
放送日時:2024年3月16日(土)21:00~
チャンネル:チャンネルNECO

柔らかな頬
放送日時:2024年3月15日(金)7:45~
チャンネル:日本映画専門チャンネル

※放送スケジュールは変更になる場合があります

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