吉岡里帆のポテンシャルを再確認!高杉真宙との共演も見どころの傑作映画『見えない目撃者』

盲目の元警察官が主人公で、視覚以外の感覚を生かして猟奇的な連続殺人犯を追う本格サスペンス映画『見えない目撃者』(2019年公開)。主人公を演じたのは人気実力派女優の吉岡里帆で、渾身の役づくりで難役に挑んでいる。

まずはストーリーを紹介すると、警察官として有望視されながら、交通事故で弟を死なせてしまい同時に視力も失った浜中なつめ(吉岡里帆)。警察官としての未来を閉ざされて失意の底にある彼女は、ある夜、車の接触事故に遭遇。車内から助けを求める少女の声を聞いて事件を確信するが、警察は彼女の訴えを聞き入れない。盲目ということもあり、証言の確実性を疑われてしまったのだ。しかし、警察学校で培った判断力と持ち前の洞察力から、誘拐事件だと確信するなつめは、現場にいたもう一人の目撃者・国崎春馬(高杉真宙)を捜し出す。

犯人を見ていない目の見えないなつめと、犯人を見ながらも被害者に気づかなかった春馬。そんな"見えない目撃者"たるふたりが協力し合ううちに警察も動き出し、やがて凄惨な女子高生連続殺人事件が発覚。その真相に近づくなつめたちに、犯人が容赦なく襲いかかる...。果たしてなつめたちは、誘拐された女性を助けることができるのか、というサスペンス・スリラーである。
じつは本作は、日本公開は2014年の韓国映画『ブラインド』のリメイク。韓国で大ヒットした作品で、後に中国でもリメイクされた話題作だ。ストーリーの骨子は元ネタに忠実だが、日本版独自のアレンジも多い。特に、韓国版ではストーリーの中盤で真犯人が判明し、ヒロインとの対決が終盤の見どころとなるのだが、日本版では犯人が後半までなかなかわからないところも見どころとなっており、意外な犯人像に加えて終盤の展開もよりスリリングになっている。
ただ、本作の見どころは、そんなハラハラドキドキなストーリー展開の素晴らしさに留まらない。 "行き過ぎた"描写に挑戦した意欲作でもあり、そのあまりにもショッキングな映像は、目の肥えたスリラー映画のファンたちも大いに驚かせた。描写の詳細は伏せるが、過去の日本映画では描けなかったようなクオリティであることは疑いない。その迫力とリアリティに度肝を抜かれる人は多いはずだ。プロデューサーの小出真佐樹氏は、「犯人の異常性を表現するために、従来の日本映画では避けてきた表現にあえて挑戦した」と製作発表時に語ったが、その言葉にまったく偽りはない。

主演の吉岡の演技も素晴らしい。主人公が盲目という設定は決して珍しくないが、本作でのなつめは、嗅覚や聴覚、触覚といった能力をフルに発揮して、犯人を追い詰める。盲目というハンディを感じさせずに逞しく闘うのだが、敵は容赦なく彼女の弱点を攻めていく...。そんな極限まで張り詰める"緊張感"を、吉岡は繊細な演技で巧みに表現している。吉岡の演技に引き込まれ、高揚感とともに「次はどうなる?」と物語に没入しながら、時間が吹き飛ぶように過ぎ去っていく。見る者は、全身に鳥肌が立つほどの緊張感を得られることだろう。
盲目のヒロインが主人公ということでは、オードリー・ヘプバーン主演の「暗くなるまで待って」(1967年公開)という傑作がある。同作もヒロインが盲目ゆえの武器を生かして、悪人と対峙するストーリーながらも、大きく異なるのは、本作の場合はヒロインが猟奇的な恐ろしい犯人を追い詰める側であることだ。ヘプバーン作品では、ヒロインが悪人に追われる立場だった。どちらかというと、映像の雰囲気としては、猟奇殺人を描いたデヴィッド・フィンチャー監督作『セブン』を思わせる作品といったほうが映画ファンにはわかりやすい。同作で犯人を追い詰める刑事を演じたブラッド・ピットの役割が盲目のヒロインだということで、本作の独自性と奥行きの深さが想像できるはず。
本作と共に、同年公開の「パラレルワールド・ラブストーリー」での演技を高く評価された吉岡は、2020年の日本アカデミー賞 新人俳優賞を受賞。以降も意欲的に映画やドラマに出演し、NHK BSプレミアムのドラマ「しずかちゃんとパパ」などで、演技派女優としての地位を固めている。彼女が女優として飛躍する転機となった作品だけに、そのポテンシャルを再確認する好機会といえるだろう。
文=渡辺敏樹
放送情報【スカパー!】
見えない目撃者<R15>
放送日時:2022年6月12日(日)23:35~、6月19日(日)23:50~
チャンネル:日本映画専門チャンネル
※放送スケジュールは変更になる場合があります
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