K-POPの歌姫・BoAが初挑戦した美しいラブロマンス...女優としてナチュラルに体現する「アラサー女性」の恋心

日本デビュー20周年のアニバーサリーイヤーを駆け抜け、21年目の記念日となる5月30日にリリースしたアニバーサリーアルバム「The Greatest」が注目を集めたBoA。8月には東方神起やNCT、aespaらSM ENTERTAINMENTの後輩たちと競演し、約3年ぶりに東京ドームで開催された「SMTOWN LIVE 2022：SMCU EXPRESS＠TOKYO」も大きな反響を呼んだばかりだ。

14歳から歌手活動を始め、日本ではK-POPアーティストの先駆け的存在としてあまりにも有名なBoAだが、2013年には韓国ドラマ「恋愛を期待して」で女優としてもデビューしている。20代男女によるユニークな恋愛模様を描いた本作で、BoAは恋愛下手な女子を演じ、演技というまた新たなフィールドでファンを魅了した。

その後、30代を迎えた2017年、本格的な恋愛映画に挑戦したのが「秋の郵便局」。初の映画単独主演を務め、秋にピッタリの切ないロマンスを繰り広げた。

「秋の郵便局」でBoAが演じるのは、当時の彼女と同世代であるアラサー女性のスリョン。ハンドメイド工作が趣味という夢見がちな彼女は、全住民が同性同本(遠い親戚)という田舎町で郵便局員として働きながら、亡き父の思い出を胸に穏やかなスローライフを送っている。

ところが最近になって、一時期、交際していた3歳年下のジュン(イ・ハクジュ)が、かつて冗談で交わした「10年後に結婚してあげる」という口約束を持ち出し、しつこく求婚してくるように...。同性同本同士の結婚はタブーとされる韓国の田舎町を舞台に、2人の心温まる恋の物語が童話のようなタッチで描かれていく。

女優としての出演作こそ少ないが、これまで様々な楽曲で恋慕を歌い上げてきたBoAの表現力は折り紙付き。自分と結婚することが目標のジュンに対し、最初はそっけない態度をとるスリョンだが、徐々に心の距離が近づく様子を繊細に移り変わる表情で演じており、葛藤したり涙したりするシーンは、あまりにも芝居がナチュラルで心を掴まれる。大人の女性としての柔らかな包容力も、成熟したBoAだからこそ醸し出せる空気に魅了される。

スリョンは、とある切ない運命も背負っていて、その現実を冷静に毅然と受け止める姿が見惚れるほど美しく胸を締め付ける。感情の機微を細やかにすくい上げるような説得力のある佇まい、そして秋のノスタルジックな田舎町の風景に映えるBoAの洗練された美貌も大きな見どころだ。

大規模な映画とは言えないが、公開当時には全州国際映画祭に出品されるなど目の肥えた映画好きを中心に注目を集めた本作。日本ではソフト化もされていない未公開映画を集めた好評企画「マストで観るべき本邦初公開韓国映画」内の1作として、11月6日(日)にスターチャンネル1にて放送される。人恋しくなる秋の季節にこそぴったりな秀逸なロマンスを、この貴重な機会にぜひ堪能してみてはいかがだろうか。

文＝川倉由起子