ソン・ジュンギの最初のブレイク期？最新作「財閥家の末息子」とは真逆の「ちゃらんぽらん男」に魅了される

回を追うごとに視聴率を急上昇させた主演ドラマ「財閥家の末息子」が話題のソン・ジュンギ。世界的な反響を巻き起こした「ヴィンチェンツォ」(2021年)と並び、彼の新たな代表作となりそうな予感だ。マフィアの顧問弁護士を演じた"ヴィンチェンツォ"と同様、財閥の秘書・ヒョヌに扮した「財閥家の末息子」でも、巨大組織に戦いを挑むキャラクターを演じており、童顔とは相反する凄みのあるカリスマ性が、近年のジュンギの当たり役と言えそうだ。

今や韓国を代表するトップ俳優へと上り詰めた一方で、2008年にデビューした彼の俳優キャリアは、間もなく15周年を迎える。その中でも出世作としてまず浮かぶのは、2010年の時代劇「トキメキ☆成均館スキャンダル」だろう。

女子禁制の名門校を舞台にした青春ラブストーリーで、ジュンギは軽薄で女好き、だが正義感が強いプレイボーイ・ヨンハを演じ、抜群の存在感を発揮。主役ではなかったが一躍注目を集め、デビュー3年目にして早くも人気に火がついた。

翌2011年には、名君・世宗大王の"文字(＝ハングル)創製"にまつわるドラマを描いた「根の深い木-世宗大王の誓い-」に出演。誠実で慈愛深い世宗大王(イ・ド)の青年時代を好演し、ドラマの大ヒットに伴い、自身の知名度も飛躍的に高めていく。

そんなジュンギだが、実はこの"第1次ブレイク期"ともいえる2011年に世宗大王とは真逆ともいえるキャラクターで新たな魅力を開花させていた。それが、ハン・イェスルと共演した映画「ちりも積もればロマンス」。ジュンギが演じたのは、楽天家のニート・ジウンだ。

何度も就職に失敗し、気の向くままに日々を送っていたジウン。文無しになりアパートも追い出されたその時、救世主のように現れた女性・ホンシル(イェスル)の誘いに乗って、金儲けに邁進する。実は国宝級にドケチのホンシルに利用されているのだが、そうとは知らないジウンはホンシルに素直に従い、ガラクタを盗んで売ったりと、詐欺まがいのことに手を染め始める。

ホンシルに出会うまで、ジウンは欲望の赴くまま、自堕落な生活を送っていた。持ち合わせがなくなれば親に小遣いを無心し、気になる女の子に「就職が内定した。SKテレコムに」とウソをつき、さらに「バカなことした。(もっと有名な)サムスンだと言えばよかった」と妙な見栄を張る始末...。

それでも憎めないのは、ジウンの前向きで真っすぐな性格の賜物だ。ホンシルの詐欺まがいのやり方に「もっと健全なやり方にしない？」と居心地悪そうなところからも根の素直さが窺えるし、職ナシ・金ナシの状況下でも「2億ウォンあったら？マンションを買って、車を買って、旅行もしたいな」と夢を描く姿も朗らかで気持ちがいい。ホンシルが落ち込んでいれば何も聞かずにヘルメットを渡し、スクーターで夜の街に連れ出す優しさもある。

"だめんず"なのに、憎めない。そのうえ、ジュンギの太陽みたいに大きくて温かいスマイルが、ジウンのキャラクターに説得力を与えている。「ちりも積もればロマンス」は、"ちゃらんぽらんなニート青年"という役柄をしっかりとかみ砕き、その上で作品の魅力へと昇華させる、ジュンギならではの人間味と技術が溶け込んだ味わい深い作品なのだ。

2013年から2015年までの兵役期間を挟み、除隊後の復帰作「太陽の末裔～Love Under The Sun～」で、俳優として一回りも二回りもスケール感を増した存在感を放っていたジュンギ。現在の活躍ぶりは誰もが知る通りだが、"第1次ブレイク期"と言えるキャリア初期の作品群で、彼の魅力の源泉を辿ってみてはいかがだろうか。

文＝酒寄美智子