沢口靖子、西城秀樹ら昭和の名優たちが躍動する大作ドラマ「さよなら李香蘭」

「山口淑子」という名を知っている人も今では少なくなったかもしれないが、歌手・女優として国際的に活躍した後、政治家に転身して参議院議員を3期務めた昭和の有名人である。昭和初期から終戦までは、「李香蘭」という名の満州・中国を代表する大スターであったが、戦乱の世に飲み込まれて数奇な運命をたどった。そんな彼女の人生をドラマ化したのが、1982年にフジテレビ系で放送された「さよなら李香蘭」だ。

「さよなら李香蘭」(C)フジテレビジョン
同作はフジテレビ開局30周年記念番組として製作され、前後編に分かれてオンエアされた。前編が22.9%、後編が25.5%という高視聴率を記録して、第27回ギャラクシー賞奨励賞を受賞している。
主人公の李香蘭こと山口淑子を演じたのは、当時絶大な人気を誇っていた沢口靖子。圧倒的な美貌を誇り、NHK連続テレビ小説「澪つくし」(1985年)の主演を射止めて以降、87年の大河ドラマ「独眼竜政宗」等の話題作に続々と出演していた。
物語は、戦前から戦中にかけて女優・歌手として活躍し、「白蘭の歌」「支那の夜」「夜来香」など数々のヒットを飛ばした李香蘭が、日本人であるにもかかわらず、日中両国の暗い時代の狭間に立たされるという激動の人生を描いていく。13歳の淑子は父・文雄(平幹次郎)の友人の養女となり、李香蘭と名付けられた。当時の山口家の周りには亡命ロシア人家族がいて、香蘭は親友のリューバチカの父親の紹介で歌の勉強を始め、中国人歌手として奉天放送局に出演するようになり、スターへの道を歩み始める...。
本作は、実話をベースとするドラマゆえに実在の有名人が多数登場する。満州国建国のフィクサーとなった軍人の甘粕正彦、「東洋のマタハリ」とも呼ばれた男装の麗人・川島芳子、俳優の長谷川一夫、歌手の淡谷のり子、作家の伊藤整といった面々たちも登場し、克明な昭和史のドラマとしても大いに楽しめる。

「さよなら李香蘭」(C)フジテレビジョン
大作だけにキャストもなかなか豪華で、淑子の母・アイ役を八千草薫、大物映画プロデューサー・川喜多役を林隆三といったベテランが演じて印象的な演技を見せている。また、甘粕を演じた片岡鶴太郎も好演したほか、川島役に起用された山田邦子もまさにハマリ役で物語にアクセントを与えてくれた。当時「オレたちひょうきん族」(フジテレビ系)などでバラエティの女王と称されていた山田邦子だが、シリアスな演技も見事にこなしてポテンシャルの高さを見せつけている。

「さよなら李香蘭」(C)フジテレビジョン
さらに共演者の中では、西城秀樹も光っている。本作では、海軍士官の松岡謙一郎役で起用されているが、元・外務大臣松岡洋右の長男。日本が国際連盟を脱退した際の主役として有名な人物だが、政治家の家系ながら彼自身は映画の道に進んだ。出番は少ないが、軍服姿の凛々しさとエリートらしさを醸し出すオーラが印象的で、存在感を発揮した。ちなみに、松岡謙一郎は後にテレビ界の重鎮となり、日本教育テレビ(現テレビ朝日)の副社長を務めている。

「さよなら李香蘭」(C)フジテレビジョン
歴史ドラマであり、芸能や政治の裏側をリアルに描いた大作ドラマとして、見ごたえ十分な作品であるが、これまでDVDソフトになっていなかった。かつてのVHS時代にはソフト化されていたものの、再見する機会が極めて少なかった貴重な作品でもある。そんな幻の大作ともいえる「さよなら李香蘭」。リアルタイムで見ていた人にはもちろん、未見の人にも絶好の機会といえるだろう。沢口靖子の美しさをはじめ、西城秀樹、平幹次郎、八千草薫、林隆三ら今は亡き昭和のスターたちの輝きを確認できる貴重な作品でもある。「M-1グランプリ2022」の審査員として物議を醸したばかりの山田邦子の演技にも注目してほしい。
文=渡辺敏樹
放送情報【スカパー!】
さよなら李香蘭
放送日時:【前編】2023年1月21日(土)18:30~
【後編】2023年1月28日(土)18:30~
チャンネル:ホームドラマチャンネル
※放送スケジュールは変更になる場合がございます
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