2023/04/25
堤真一の緊迫感溢れる演技から目が離せない!堺雅人の熱量のある演技も見事な映画「クライマーズ・ハイ」
社会派エンタテインメント映画「クライマーズ・ハイ」(2008年)が、5月2日(火)にWOWOWプラスで放送される。本作は、実際に地方紙の記者だった横山秀夫が自身の体験をもとにしたベストセラー小説を原作としている。1985年の日航機墜落事故をモデルに、特ダネをものにしようと奔走する地方紙の記者たちの苦闘を描写した。日本アカデミー賞優秀賞を多部門で受賞した「突入せよ!あさま山荘事件」(2002年)や、モントリオール世界映画祭審査員特別グランプリ受賞作「わが母の記」(2012年)などで知られる原田眞人監督が映画化した力作だ。
1985年8月12日、羽田空港を離陸した日本航空123便が群馬と長野の県境に墜落した。その一報に地元紙である北関東新聞の記者たちは緊張するが、遊軍記者である悠木が全権デスクに任命される。記者として一大ニュースを扱う興奮を禁じえない一方で、「新聞は命の重さを問えるのか?」という命題を突きつけられる。混乱する現場と妬みや苛立ちに激昂する社内、加熱する全国紙との報道合戦、そして壊れてゆく家族や友人との絆。異常な熱気に包まれる中で悠木は、あるスクープをめぐって極限の決断を迫られる。
事故の全権デスクを担う敏腕記者・悠木を演じたのは堤真一。複雑な生い立ちもあり、組織から一線を画している。信頼する部下が必死に届けた記事を載せるべく奔走する中で、新聞の意義とは何か、悩み葛藤する。覚悟を決めた強い表情からは、内に秘めた激しい熱がひしひしと伝わってくる。社内での陰湿な嫌がらせや確執に翻弄されながらも、信念を貫こうと懸命にもがく男を演じきった。緊迫感溢れる演技は1人の男の生き様をリアルに感じさせる。同年の映画「容疑者Xの献身」では、全く異なるキャラクターとなる悲壮感漂う天才数学者に扮し、圧巻の演技を披露したことも話題となった。この2作により、報知映画賞で最優秀主演男優賞、日本アカデミー賞優秀主演男優賞と優秀助演男優賞のW受賞を果たしたのも納得の演技だった。
また、悠木の部下で凄惨な事故現場を走り回る社会部記者・佐山には堺雅人が起用された。血走った目を爛々と輝かせ、息も絶え絶えになりながら現場の状況を必死に伝える。大スクープに意気揚々と飛び出した佐山は、神沢と共に惨状を目の当たりにして満身創痍で帰ってくる。その姿からは彼らが見てきた現実を想像させ、寒気すら感じさせる。記者の仕事にやりがいを見出す、したたかでタフな男を熱演した。大河ドラマ「新選組!」(2004年)の山南敬助役で注目を集め、「篤姫」(2008年)での徳川家定役でも世間に広く認知された堺。人気と実力を兼ね備え、本作ではブルーリボン映画賞助演男優賞をはじめ同年の主要映画賞を総なめにした。
堤や堺のほか山崎努(※「崎」は正しくは「立さき」)や高嶋政宏、尾野真千子、遠藤憲一、田口トモロヲ、堀部圭亮、滝藤賢一ら演技派が多数出演。未曾有の大事故の裏で苦闘する新聞社社員たちとリンクするような迫真の演技がぶつかり合う。ブルーリボン賞作品賞をはじめ、日本アカデミー賞において10部門で優秀賞を受賞するなど高く評価された。圧倒的な熱量で描かれる群像劇は一見の価値ありだ。
文=中川菜都美