2023/06/16
「女子野球もやろう」から"二刀流"の挑戦。ホークスカップ初出場の熊本国府・河野博行監督「うちはイワシの大群」
九州・沖縄の高校からクラブチームまでの女子硬式野球チームNo1を決める「2023ホークスカップ クイーンズトーナメント supported by SMBC」が6月21日(水)~25日(日)にわたり開催される。2019年の第1回大会から数えて今回が3回目(2020年、2021年は中止)になるが、今大会では初めて1回戦からの全試合がPayPayドームを舞台に行われる。今大会は7チームが出場。初代女王の神村学園高等部、第2回女王の九州ハニーズに次ぐ戴冠をどのチームが手にするのか。
少子化の影響もありスポーツ界全般的に競技人口の減少が危惧されるが、女子野球は近年も右肩上がり。そういった中で今大会に初めてエントリーしたチームがある。熊本国府高校だ。大会開幕まで2週間を切った6月10日、熊本市内のグラウンドで大会1回戦でも激突する熊本レッドホークスとの練習試合を行った。プレーボール直前の練習といえばプロでもアマでも通常はシートノックを行うもの。しかし、熊本国府の選手たちは一塁、二塁、三塁のベースにそれぞれ分かれて、走りだしたり戻ったりの走塁練習を繰り返していた。
熊本国府の河野博行監督が、気恥ずかしそうに笑って理由を説明してくれた。
「うちは女子ソフトボール部と女子硬式野球部の『二刀流』なんです。1週間前までソフトボール部として県の高校総体に出場していました。総体に向けてずっとソフトボールの練習をしていて、硬式野球に切り替わったのは3日前。ソフトボールには『リード』がありません。そのため野球の走塁の基礎をまず理解してもらうところからやっています」
たとえば、三塁走者はファウルゾーンをリードする方がいい。その理由を選手たちに問いかける。考えさせて答えを導かせ、その後に説明をする。
「万が一打者の打球に当たった場合、フェアゾーンに居たらアウトになってしまう」
逆に帰塁するときは線上に近いところを行く。捕手が牽制するとき三塁手へボールを投げにくくするためだ。
熊本国府のソフトボール部は1953年に創部され、全国準優勝の経験もあった。河野監督は7年前から同校に赴任し最初は男子野球部を指導。2021年から女子ソフトボール部の監督に就任したのは、近い将来のソフトボール部から女子野球部への移行を見据えたものだった。
「当時の校長先生が『女子野球をやろう』と。女子野球が盛んになり始めたのもありましたし、2021年には全国高等学校女子硬式野球選手権大会の決勝戦が初めて甲子園球場で行われることが決まるなど気運も高まっていたためだと思います」
ソフトボールと女子硬式野球の二刀流での活動は一時的な措置で、河野監督は「この子たちはすごく珍しい年代。全国でも2校(もう1校はクイーンズトーナメントにも出場する宮崎・日南学園高校)しかありません」と話す。もちろんむずかしさもあるが、実際に挑戦してみると苦難以上の利点を感じているという。
「技術面でいえば投手のボールにスピード負けしない打撃だったり、守備でも捕ってから投げるまでが速く、ミスをした場合でも野球は塁間の距離があるのでアウトにできるから選手たちも慌なかったりするところです。私自身も野球畑を歩んできてソフトボールは未経験でしたが、ソフトボールをやるから野球に生かされること、またその逆もあることに何度も気づかされました。意外な発見ともいえます。野球だけをやっていたらこのような感覚にはならなかったでしょう。やはり別のものも見たり体験したりすることは大切。指導においても自分の経験が正しいのではなく、常にいろいろな角度から見たり考えたりすることも大切さを知ることができました」
女子高校野球界も先述したように全国選手権の決勝は甲子園球場で行われたり、選抜大会の方の決勝は東京ドームで開催されたり、夢に向かって挑戦できる舞台も整いつつある。PayPayドームでプレーができる「2023ホークスカップ クイーンズトーナメント supported by SMBC」もその1つだ。
チームのキャプテンを務める今村咲葵選手(3年)は「すごいいい球場で野球ができるのを楽しみにしています」と目を輝かせる。
「憧れはヌートバー選手(セントルイス・カージナルス)。WBCを見る前までは大谷翔平選手が好きでしたが、ヌートバー選手の内野ゴロでも全力疾走したり、浅いフライには突っ込んでダイビングキャッチしたりする姿がかっこいいと思いました」
チーム一の元気者で「声と元気で引っ張りたい。私たちも全力で取り組んで、笑顔でいい思い出になったねと振り返れるような、悔いのない大会にしたいです」と意気込む。
そして、チームの1、2番打者コンビにも注目だ。
1番打者は大嶌摩莉奈選手(2年)。2人の兄の影響で小学校4年生からボールを追いかけ始めた。
「小中は男子と同じチーム。肩の強さとかは敵わないけど、捕って投げるまでの速さとか正確さとか、1つ1つの技術を磨けば勝てるところもあった。そうやって練習すればするほど上手くなるのが楽しくて野球が好きになりました」
憧れは山田哲人選手(ヤクルト)。「高校卒業後も野球を続けていきたい」との夢を持つ。
2番打者の上田朋花選手(2年)は元々ソフトボール経験者。「熊本国府高校ではソフトだけじゃなくて野球もやると知って、挑戦したいと思ってこの学校を選びました」と話す。
「ソフトボールはしっかり当ててヒットにするという感覚ですが、野球は思いっきりバットを振りきらないとヒットにならない。でも、そこが楽しいです」
好きな選手は廣岡大志選手(オリックス)。「かっこよくないですか」と素顔はやはり女子高生だ。
上田選手自身は右投げ左打ちの外野手。PayPayドームではソフトバンク・近藤健介選手のような巧打に期待したい。
部員数は現在25名。河野監督はチームの強みを「結束力」だと言った。
「イワシの集団って感じです。イワシの大群。決して上手じゃないかもしれないですけど、すごくまとまっていて、一つになってやってくれるような。元気で明るくまとまって、そういう印象ですかね」
先日のソフトボール県高校総体では、実に10年ぶりの準優勝を飾ったという。
「長い間準決勝の壁を破れずにいたのですが、彼女たちがそれを突破してくれました。試合を重ねるごとに強くなる。それを本当に実感しました。普段はできないようなファインプレーを見せたり。自分たちはやれるという自信をもって、ホークスカップにも望めると思いますし、彼女たちは緊張するようなタイプでもないので本当に楽しみです」
1人1人がまとまって大きな力を発揮する熊本国府高校。ホークスカップで新たな旋風を巻き起こすか、注目のチームとなりそうだ。
文・撮影=田尻 耕太郎(スポーツライター)