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2023/11/30

雪組トップスター・彩風咲奈を始め、雪組全体の素晴らしさが際立つ舞台「蒼穹の昴」('22年雪組・東京・千秋楽)

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彩風咲奈
彩風咲奈

浅田次郎の人気長編小説を舞台化した雪組公演「蒼穹の昴」。19世紀末の中国・清朝の末期、西欧列強の脅威が迫る中、保守派と改革派が対立する時代の話だ。物語は改革派のひとりとして奮闘する梁文秀(リァン ウェンシウ・彩風咲奈)と、宦官の頂点に上り詰めて西太后の信を得る李春児(リィ チュンル・朝美絢)の2人を軸に展開する。

朝美絢 ~浅田次郎作「蒼穹の昴」(講談社文庫)より~
朝美絢

~浅田次郎作「蒼穹の昴」(講談社文庫)より~©宝塚歌劇団  ©宝塚クリエイティブアーツ

梁文秀を演じるのは雪組トップスターの彩風咲奈だ。確かなお芝居と歌唱力、そして長い手足を活かしたスタイリッシュなダンスが魅力のスターである。
 
その彩風演じる梁文秀は、科挙の試験に首席で合格する秀才だが、現実を誰よりも冷静に見据えている。バランス感覚あふれるその中に、国の未来のため、貧しい人々のために尽くそうという確かな志が伝わってくる人物だ。とかくバランスの取れた人というのは魅力的な主人公になりにくいが、それをやってのけられるのが彩風咲奈というスターの持ち味である。

朝美演じる李春児は、その天真爛漫さで不思議に人を惹きつけ、誰もが応援せずにはいられなくなるような存在だ。貧しさに喘ぐ中で「宦官になるしかない」という決意をするまでの芝居が切ない。師匠・黒牡丹(ヘイ ムータン・眞ノ宮るい)との京劇の場面も、見どころの1つである。

朝月希和
朝月希和

~浅田次郎作「蒼穹の昴」(講談社文庫)より~ ©宝塚歌劇団  ©宝塚クリエイティブアーツ

トップ娘役・朝月希和が演じるのは文秀の妹分のような存在の李玲玲(リィ レイレイ)。中国物らしい華やかな衣装で娘役が居並ぶ中にあって、玲玲のシンプルで可愛らしい衣装は彼女の純粋さを際立たせているようだ。この公演が卒業公演となった朝月の集大成として、文秀への想いを繊細に描いてみせる。

文秀の同僚、順桂(シュンコイ・和希そら)は、先祖から受け継いだ「使命」を背負った人物だ。寡黙でクールだが、内に秘めた熱い思いと、満州旗人としての誇りが、歌とダンスから伝わってくる。
 
悲運の皇帝・光緒帝 載湉(ツァイテン・縣千)。辛抱役だが、大階段にしつらえられた豪華な玉座がよく似合う。ミセス・チャン(夢白あや)は、紫禁城の女性たちとは一味違う現代的なふるまいで、少ない登場シーンの中、キーパーソンとしての存在感を見せた。

今回、専科から出演している6人が重要な役柄を演じている。文秀と春児の運命を左右する占い師・白太太(パイタイタイ・京三紗)、まるで本物が蘇ったかのような伊藤博文(汝鳥伶)、改革派の支柱としての楊喜楨(夏美よう)の信頼感、権力欲に振り回される栄禄(悠真倫)の滑稽さ、武人の鑑のような李鴻章(凪七瑠海)の威容、そして、落日の帝国を支える女帝・西太后 慈禧(ツーシー・一樹千尋)の孤独と哀しみ...その手堅い布陣は作品に重厚感を加えた。

対する雪組メンバーも健闘している。「ペンで闘う」ジャーナリストの岡圭之介(久城あす)の信念、裏切り者・袁世凱(真那春人)のコンプレックス、優しい譚嗣同(タン ストン・諏訪さき)の決断、皇帝を扇動する康有為(カン ヨウウェイ・奏乃はると)の賢しさ、我が道を行く王逸(ワン イー・一禾あお)の一途さ、そして、風貌が目を引く安徳海(アン ドーハイ・天月翼)など、個性あふれるキャラクターが揃う。

洋物とは一味違う衣装の色使い、箏や胡弓、銅鑼の音色が加わった音楽、大階段をうまく使った紫禁城の場面には思わず息を呑む。フィナーレのパレードでもいつもの羽根は背負わず、中国風の豪華な衣装で見せる。

壮大な物語がスピーディーにまとめられている。幕が下りた後も激動の時代を生き抜いた人々の姿が思い出され、心地良い余韻に浸ることができる作品である。

文=中本千晶

放送情報

蒼穹の昴('22年雪組・東京・千秋楽)
放送日時:12月6日(水)08:00~ほか
放送チャンネル:TAKARAZUKA SKY STAGE
※放送スケジュールは変更になる場合があります

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