長谷川京子が色気と圧倒的なビジュアルで挑んだ、松本清張没後20年特別企画「危険な斜面」

洗練された色気と清楚さを兼ね備える存在として、芸能界デビュー以来、人々の憧れの的であり続けている長谷川京子。年齢を重ねるごとにさらなる輝きを纏う長谷川、そんな彼女が魔性の美女を熱演したのが、2012年放送の「松本清張没後20年特別企画『危険な斜面』」だ。

西島電機の工場に勤務する秋場文作(渡部篤郎)は、出世とはほど遠い生活を送っていた。そんなある日「新春全体会議」に出席した秋場は、グループ全ての実権を握る西島会長(中村敦夫)に会う。そして、その側に寄り添う美しい女性が、11年前に別れた秋場の元恋人・野関利江(長谷川京子)で、利江が秘書室長であり会長の愛人でもあることを知る。

妻子ある立場の秋場だったが、利江との再会後、2人の関係は一瞬で燃え上がる。時を経て美しさを増した利江に惹かれる一方、秋場には"利江を利用すれば、会長に近付けるかもしれない"という、これまで抑えてきた出世欲が湧きあがっていた。利江からの情報で、徐々に会長の信頼を得ていく秋場。そんなを彼を見て喜ぶ利江だったが、次第に秋場の愛を独り占めしたくなっていく...。「妊娠している。一緒になってほしい」と秋場に告げる利江だったが、その瞬間、出世欲にかられた秋場の心中に殺意が芽生える。

一方、利江には秋場と出会う前に交際していた飲料会社のサービススタッフ・沼田仁一(溝端淳平)がいたが、秋場と再会して以来、利江は沼田とは距離を置いていた。そんなある日、利江が突然失踪。そして数カ月後、京都市郊外の山中から白骨化した利江の遺体が見つかる。捜査が難航する中、独自に犯人を突き止めようとする沼田は、ある手掛かりを頼りに、利江を殺害した犯人を追いつめる...。

本作で長谷川が演じるのは、勤務先の会長、11年ぶりに再会したかつての恋人、そして今の恋人という3人の男性と関係を持つ美女・利江。長谷川は清楚なショートヘアと一目で上質とわかるファッション、そして持ち前の圧倒的なビジュアルで、利江が複数の男性を虜にしてしまう魅力の持ち主であることを視聴者に印象づけることに成功している。黒のワンピースやブルーのノースリーブワンピなど、ビジネスシーンでの凛とした美しさもさることながら、秋場との不倫旅行先の場面では、会社では決して見ることのできない乱れた髪や浴衣姿から大人の色香を漂わせ、秋場を演じる渡部に向ける信頼に満ちたまなざしで、利江がどれほど秋場を愛しているのかも見事に表現してみせた。

本作が松本清張作品初出演となった長谷川は、放送当時、周囲の男性を虜にする利江の役作りに「会長の愛人であり、秋場さんとも関係を持ち、沼田とも...という女性なのですが、それだけ魅力がある女性なんだと思います。共演する男性のそれぞれのシーンでどんどん変えて演じていきたい」とコメントしていた。その言葉どおり、対峙する男性俳優が変わるたびに、さまざまな表情をみせていく長谷川の演技に注目しながら、稀代の小説家・松本清張が描いた男と女の奥深い愛憎劇を堪能してほしい。

文＝中村実香