小泉孝太郎が社会の闇に切り込むディレクターを演じた、連続ドラマW「死の臓器」

刑事や医師など様々な役柄を演じ、情報番組やバラエティ番組にも数多く出演し、その好感度の高さは誰もが知るところの小泉孝太郎。その小泉がTVの制作会社で働き、事件を追いながらマスコミの在り方について葛藤するディレクターを演じたのが連続ドラマW「死の臓器」(2015年)だ。

原先は麻野涼の同名小説で、メガホンをとったのは「ストロベリーナイト」や「六人の嘘つきな大学生」(11月公開予定)の佐藤祐市。腎臓移植と日本の医療問題に切り込んだ社会派医療サスペンスで、小泉は報道マンとして事件を追っていく中、自身の人生についても見つめ直すことになる沼崎恭太を熱演している。当時、小泉は「あとで振り返った際に、30半ばでの大きな転機となるような作品にしたいと思います」とコメント。沼崎の同僚で元恋人役、雨宮由香里を演じた小西真奈美と12年ぶりの共演を果たしたことも話題となった。制御できない焦燥感と苛立ちを抱えながら、深い問題を孕んだ事件に立ち向かう小泉が今までにない顔を見せる。

■小泉が富士の樹海で発見した美女の遺体の謎を追及する主人公を演じる

番組の取材で樹海に入っている最中、沼崎(小泉)は赤いコートを着て倒れている若い女性の遺体を発見する。駆けつけた山梨県富士警察署の刑事、白井(豊原功補)は司法解剖を命じ、その結果、片方の腎臓を摘出した手術痕があることが判明。一方、階段から転落した男女の女性にも不審な腎臓手術を受けた形跡があったことから、日野病院の院長・日野誠一郎(武田鉄矢)に違法な手術、そして臓器売買の嫌疑がかけられ、院長はマスコミから叩かれまくることになる。ミステリアスな出来事が起こる中、数々のスクープをとってきた沼崎は樹海の身元不明の女性に事件性があると見て、現場にいた白井や日野、医療関係者と接触。自身が勤めるプロダクションの社長と闘いながら、関係者にビデオカメラを向け続ける。同僚の由香里(小西)に「もっと力抜いたら？」と言われるほどイラついている沼崎はマスコミ嫌いの白井に正面からぶつかっていき、日本では認可がおりていない術式、レストア腎移植を行っている日野院長に若造呼ばわりされながら、カメラを向け、容赦なく切り込んでいく。時に声を荒げ、相手に掴みかかる勢いで単独取材をする報道マンを演じた小泉が爽やかなイメージとは異なる陰のある役に挑んでいる。

■スリリングな台湾ロケはドラマの見どころのひとつ

事件を追っていく過程で沼崎は台湾に移植手術の権威と言われている医者がいることを知り、さっそく現地に飛び、白井から聞いた臓器ブローカー、船橋(川野直輝)と接触することになる。今から約10年前の台北の街並みが映し出される中、妻が腎臓病だと嘘をつき、高級ホテルやバーでお互いの腹を探り合うような危険な取材が繰り広げられる場面は一触即発の緊張感。異国でのロケが事件の底知れない闇に観る者を引きずりこむ効果的な装置となっている。腎不全を患っても、ドナーがいないという現実、日本の医療の実態、そして右へならえの姿勢で煽り報道をするメディアに対して疑問符を投げかける本作はまさに社会派医療サスペンスの名にふさわしい。赤いコートを着た美女はなぜ、樹海で発見されたのか？最後までわからない謎が武田の名演技、小泉の熱演と共にじっくり堪能できる作品となっている。

文＝山本弘子