2024/07/15
田中圭とオードリー・若林正恭の「タサイさ」のマリアージュが涙を誘う舞台「芸人交換日記」
2000年のデビュー以降、さまざまな作品に出演し"役者道"をまい進し続けている田中圭。シリアスからコメディーまで、硬い役から柔らかい役まで、主演から助演まで、どんな作品のどんな役でも見事に演じ切る実力派俳優の一人だ。
一方、相方・春日俊彰と組んでいるお笑いコンビ・オードリーのツッコミとして、2008年の「M-1グランプリ2008」での準優勝でブレイクし、今やMC業もこなす芸人の若林正恭。その活動は芸人だけでなく、作家や役者にまで及び、作家業では2018年に著書「表参道のセレブ犬とカバーニャ要塞の野良犬」で第3回斎藤茂太賞を受賞し、役者業では映画初出演作の映画「ひまわりと子犬の7日間」で「第37回日本アカデミー賞」話題賞 俳優部門を受賞するなど多岐にわたっている。
そんなそれぞれの分野で次世代を担う2人が共演した作品が、8月7日(水)に日本映画専門チャンネルで放送される、舞台「芸人交換日記」(2011年)だ。同作品では、2人の"タサイさ"が際立っており、観る者の心を熱くしてくれる。
この作品は、今年、放送作家業を引退した鈴木おさむ作・演出の舞台で、田中と舞台初主演の若林が売れないお笑いコンビを熱演するハートフルコメディー。結成11年目となるお笑いコンビ「イエローハーツ」のツッコミ・甲本(田中)は、もっと売れるために相方・田中(若林)に「交換日記」を始めることを提案。「普段言えないことや言いにくいことなどをノートに書いて伝え合おう」という甲本に対し、最初は断っていた田中だったが、甲本の勢いに押されてなし崩し的にしぶしぶ付き合うことに。2人が交換日記を介して本音をぶつけ合っていく中、新たなお笑いコンテストが始まり、2人は芸人人生を懸けて参戦することに。再起を図って漫才に向き合ううちに、2人は忘れていた"ひたむきさ"や"情熱"を思い出していく。
田中は、「芸人のやることじゃない」と言ってバイトはせず彼女の家に転がり込み、彼女から小遣いをもらって生活している甲本を好演。まっすぐで短絡的だが、なぜか憎めない愛嬌抜群のキャラクターとして演じており、"ダメダメなクズ"でありながらも、嫌悪感を抱かせないかわいらしさを絶妙な塩梅で、痒い所に手が届くようにしっかりとツボを押さえて表現している。子供がそのまま大人になったかのような、周囲を巻き込んでいく勢いと直情的な感情表現を役のアイデンティティーとしながらも、締めるところは締める緩急のある演技で、観る者の涙を誘ってくれる。
そんな中で特筆すべきは、田中圭の"多彩さ"だ。甲本はさまざまな感情を素直に出しながら竜巻のように力強く相方を巻き込んでいくのだが、その感情表現のグラデーションが見事。後輩への嫉妬や焦り、芸人としてのプライド、人としての矜持、一人の男性としての在り様、相方への思いなど、物語の"動"の部分を一身に背負って、"多彩"な演技で作品の屋台骨を構築している。
対して若林は、根暗だがお笑いの才能にあふれた田中役を演じている。竜巻のような甲本を、時にいなし、時に制し、時に背中を押しながら、お笑いの世界に誘ってくれた甲本との「イエローハーツ」の漫才を作り上げることに情熱を注いでいく青年を、静かに燃える青い炎のように表現。物語の"静"の部分を担当し、観る者の心の隙間を照らし出す役割を果たしている。
そんな中で触れずにはいられないのは、若林の"多才さ"だ。甲本と田中は直接的な会話はなく、基本的に交換日記を介して会話するという設定になっており、舞台上、上手の甲本の部屋と下手の田中の部屋の境となる、中央に置かれたポストに交換日記を置き合う動きをしながら会話劇を展開していくのだが、相手がノートを開いている間は自分のせりふを話すという高度で忙しい芝居の中、しっかりと間を外さずに田中と渡り合っている。しかも、会話劇ではツッコミのような立ち位置でありながら、漫才のシーンではボケを演じるなど、本職のツッコミの域を超えた才能を垣間見せてくれている。
「ほぼ2人芝居」といってもいいほどに2人の掛け合いがメインとなっているのだが、田中の"多彩さ"と若林の"多才さ"のマリアージュによって紡がれるストーリーは必見。2人の"タサイさ"に注目しつつ、夢を抱いたことのある人なら誰もが刺さるであろう、作品が伝えるメッセージを受け取ってほしい。
文=原田健