2024/09/13
20年前の菅野美穂&藤木直人のフレッシュなW主演に加えて、玉木宏、森山未來ら豪華俳優が出演したドラマ「愛し君へ」
視力を失っていく恐怖と闘うカメラマンとそれを支える女性の葛藤を丁寧に描いた、連続ドラマ「愛し君へ」。主演は菅野美穂と藤木直人。脇を固めるのは玉木宏、森山未來、伊東美咲、岡田義徳、泉谷しげる、八千草薫、時任三郎など豪華な布陣だ。脚本は数々の名作を世に送り出してきた坂元裕二。映画「怪物」で第76回 カンヌ国際映画祭・脚本賞を獲得したのも記憶に新しい坂元だが、その手腕は2004年制作の本作でもいかんなく発揮され、とにかくセリフが秀逸。自分のことよりもただただ愛する人のための言葉が随所に散りばめられた彼の脚本によって、登場人物は魅力的に映り、その思いもひしひしと伝わってくる珠玉の名作である。
大学時代の同級生・安曇利也(岡田)が亡くなり、葬儀が行われる彼の地元・長崎へと足を運んだ友川四季(菅野)、浅倉亜衣(伊東)、折原新吾(玉木)たち。そこで利也の兄・俊介(藤木)と出会うが、親戚たちからは"放蕩息子"と揶揄され、言動もチャラく、四季は利也が生前、尊敬していると語っていた兄のイメージと程遠いことに愕然とする。しかし、話をしていくうちに俊介の本質に触れ、彼が撮影した子どもたちの笑顔の写真から、悪い人ではないかも...と思うように。一方、目に異常を感じた俊介は眼科でベーチェット病だと診断される。「病気が進行すれば最悪、視力を失うこともある」と医者に宣告され、カメラマンとしてこの先どう生きればいいのか...俊介は強いショックを受ける。誰にも相談できず、進行していく病。そんな中、研修先の病院で俊介と再会した四季は、彼の変化に気づき、次第に気になる存在になっていく。
四季と俊介の恋愛を軸に置きつつも、四季の家族と友人を交えたにぎやかな食卓や、俊介の母との何気ない会話など、どこを切り取っても意味のないシーンは1つもなく、全てがつながっている見事なシナリオ。冒頭は長崎の美しい風景、そこに溶け込んだ優しいセリフのオンパレード、第1話から映像美と会話劇に圧倒された。恋、親子、兄弟、友情...いろんな愛がつまっている。そして俊介の病が発覚した第2話以降は怒涛の展開へ突入していくのだ。
魅力的な登場人物の中でその中心は、やはり主演の2人。視力を失うことはカメラマンとして致命的で、自分が自分でなくなってしまう、そんな虚無感にさいなまれながらも、四季という一筋の光を頼りに前進していく俊介。本作が制作された20年前といえば、藤木は「高校教師」で主演を務め、飛ぶ鳥を落とす勢いの人気絶頂期。申し分のないルックスながら、どこか陰を感じさせ、"視力を奪われるカメラマン"という難役を演じ切っている。かたや小児科の研修医・四季役の菅野も、一生懸命に俊介を支えようとする献身的な女性を、透明感ある芝居で見せている。勢いとパワーに加え、真っ直ぐな演技が清々しい、若かりし頃の藤木&菅野に注目だ。
文=石塚ともか