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雪組公演「ボイルド・ドイル・オンザ・トイル・トレイル」雪組新トップスター・朝美絢の魅力

2025/02/20

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今もなお多くの人々の心を捉えて離さない名探偵シャーロック・ホームズ。宝塚歌劇で彼を主人公とした作品といえば「シャーロック・ホームズ-The Game Is Afoot!-」(2021年宙組)があるが、2024年に雪組で上演された「ボイルド・ドイル・オンザ・トイル・トレイル」は、ホームズの生みの親であるアーサー・コナン・ドイルの方が主人公だ。作・演出は「シャーロック・ホームズ-The Game Is Afoot!-」に続いて生田大和である。

ホームズシリーズが誕生し、ドイルが売れっ子作家となっていく前半もワクワクするけれど、何といっても後半が味わい深い。欲に溺れ、自らが生み出したキャラクターであるはずのホームズの存在に振り回された挙句、彼が気付いたこととは?「好きなことで生きていく」のはとても難しいことなのだ。作者はドイルの生き方を通じて、この問題を深く掘り下げる。

本作における異色のホームズを演じるのが、このたび新生雪組の新トップスターとなった朝美絢である。2009年、スターぞろいで知られる95期の一人として入団。月組に配属され新人時代を過ごした後、2017年に雪組に組替え。最近では韓国ドラマを舞台化した「愛の不時着」の主人公リ・ジョンヒョク役を演じ話題となった。圧倒的な美貌、豊かな包容力、そして緻密な芝居と、一見併存し難いような魅力を兼ね備えたスターである。


 
そんな朝美が演じるホームズ000は、物語の世界から抜け出してきたような異世界感を醸し出しつつ、ドイルを翻弄していく。ドイルの創造の産物であったはずが、創造のパートナーとして対等な立場となり、やがて悪魔のようにドイルを苦しめ始める。その関係の変化を的確に表現してみせる。

主人公アーサー・コナン・ドイル(彩風咲奈)は、子どものような純粋さと、物書きとして生きていきたいというあくなき欲望の両方を兼ね備えた、一見朴訥なようでいて内にとんでもないエネルギーを秘めた人物だ。じつは彼は幸せな家庭に育っておらず、故に「家族」への執着を強く抱くようになる。そんな生い立ちにもスポットが当てられる。

一筋縄ではいかない夫を支えるのがドイルの妻、ルイーザ(夢白あや)だ。天真爛漫で一点の曇りもなくドイルの才能を信じている、売れていない時代からの一番の味方だ。だが、現実を見据えて行動するしっかり者でもある。まさに理想の伴走者である。

ホームズシリーズを掲載することで経営危機を脱するストランド・マガジンの編集長ハーバート(和希そら)は「売れる作品を探し続ける」ことにかけてはドイルに負けない貪欲さを持つ。方向性は異なるもののドイルと同レベルのエネルギーの持ち主であり、二人のパワーがかけ合わさった時に大ヒット作が誕生する。
 
怪しげな心霊術で人を惑わす、心霊現象研究協会のメイヤー教授(縣千)は、ホンモノを創り出すドイルに対するニセモノという面白い役どころ。そのニセモノからもらった「魔法のペン」でホンモノが生み出されるのも皮肉が効いている。

大衆を演じるアンサンブルも、作品の中で重要な役割を担っている。19世紀末ロンドンの治安の悪さや不穏な空気の中で生きる彼らが、ホームズに熱狂するあまり暴徒と化していく。こうした姿はSNSで炎上する現在とも重なって見え、いつの時代も人は変わらないと思わされる。
 
だからこそ「世界には物語が必要だ」というドイルの言葉が、余計に心に響く作品である。

文=中本千晶



放送情報

ボイルド・ドイル・オンザ・トイル・トレイル(’24年雪組・東京・千秋楽)
放送日時:3月2日(日)21:00~ほか
放送チャンネル:TAKARAZUKA SKY STAGE
※放送スケジュールは変更になる場合があります



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