西田敏行、吉岡秀隆、いしだあゆみら名優が温かい感動を紡ぐ！山田洋次監督作品「学校Ⅱ」

映画「男はつらいよ」シリーズを始め、心温まる人情物語を創り上げてきた巨匠・山田洋次監督。数ある山田監督の作品の中にあって、教師と生徒の心の交流に主軸を置いたのが映画「学校」シリーズだ。1993年に第1作「学校」が公開され、2000年公開の「十五才 学校IV」まで、7年の間に4作品が制作された。

ここではその中から、第2作「学校Ⅱ」(1996年公開)にスポットを当ててみたい。舞台となるのは北海道・竜別高等養護学校で、知的障害のある生徒と教師たちが、共に成長していく姿が描かれる。

本作には山田監督と深いつながりのある俳優が数多く出演しており、主演は第1作に続いて西田敏行が務めた。西田が主演を務め、山田洋次が脚本を担当したタッグ作品、映画「釣りバカ日誌」シリーズが息の長い人気シリーズであることは周知の通りだ。そして「男はつらいよ」シリーズで諏訪満男役を務めた吉岡秀隆も、物語の主要人物として出演している。

■優しさと熱に溢れる養護学校教師を熱演した西田敏行

コメディやヒューマンドラマで本領を発揮する西田。本作では養護学校の教師・青山竜平を好演し、生徒や仲間の教師を優しく包み込むと同時に、熱を感じる人物を演じている。

物語の序盤、生徒の高志と佑矢が失踪したと聞いた時には、佑矢のことを「介護が必要な生徒なんだよ」と真摯な眼差しで語り、目撃情報を追って辿り着いた駅では、途方に暮れたような表情を見せる。そんな竜平の様子からは、心底、生徒たちを心配しているのが伝わってくる。

その後、物語の視点は高志(吉岡)や佑矢(神戸浩)が入学した当時に移る。生徒たちに手を焼き、時には迷いながらも、竜平は仲間の教師と共に、生徒たちを理解しようと努力を続ける。

暴れる佑矢に激昂する教師・小林大輔(永瀬正敏)を、「子どもたちに迷惑を懸けられるのが教師の仕事」と強い口調で諭したり、就職のための現場研修がうまくいかない高志をかばい、必死に社長を説得しようとしたり、竜平の熱を感じるシーンも数多くある。

そして、そういったシーンが積み重なっていき、いつしか竜平が生徒と仲間の教師を思いやる、優しくて頼りがいのある人物として心に刻まれていく。そうなるのはやはり、真摯で味のある西田の演技の力だろう。

■心に傷を追った生徒を圧巻の演技で体現した吉岡秀隆

吉岡が本作で演じるのは、いじめを受けて心に傷を負い、言葉を発することができなくなってしまった生徒・緒方高志だ。物語に最初に登場するのは駅で切符を買うシーンで、その時のたどたどしい口調や、身体をこわばらせている様子から、高志の心の状態がかすかに伝わってくる。

養護学校入学当時の高志はもっとつらい状態にあり、それを体現した吉岡の演技は圧巻だ。母が運転する車の助手席で、虚ろな目でドアに身体を寄せていたり、教室で竜平が優しく話しかけても、身体が固まったような状態で俯いていたりする。

物語が進むと、高志が書いた作文がコンクールで賞を取る。その中に「僕は心の中にカベがあります」という一文があるのだが、まさにそんな空気が高志にはある。竜平と2人で食事をするシーンでは、自分の想いが壁にぶつかり、それがさらに自分を傷つけているような様子がありありと伝わってくる。そんな姿には心が締め付けられるし、難しい役どころを説得力を持って演じきった吉岡の力量はさすがと言うほかない。

■愛らしかったり気が強かったり...魅力と存在感のある教師を演じたいしだあゆみ

そしてもう1人、本作には注目せずにはいられない女優が出演している。今年3月にこの世を去った、いしだあゆみだ。昨年公開の映画「室井慎次 敗れざる者」「室井慎次 生き続ける者」での熱演も注目されるなど、長きにわたり活躍し続けた女優だ。

本作でいしだが演じたのは、教師の北川玲子。生徒に親身になって接している時の笑顔は、心奪われるほどに明るくてキュートだ。粗相した佑矢を母親のように慰めたり、つらい業務に不満を持つ同僚の小林に強い口調で説教したり、さまざまな感情を投げかける演技も秀逸で、いしだの魅力を存分に味わうことができる。

本作は第20回日本アカデミー賞で優秀作品賞を始め多くの賞を受賞しており、西田は優秀主演男優賞、いしだは優秀主演女優賞、吉岡は優秀助演男優賞をそれぞれ受賞している。それぞれの演技はもちろん、西田や吉岡、そして、いしだがスクリーンの中から届けてくれる感動を、しっかり受け取ってほしい作品だ。

文＝堀慎二郎