松田龍平が異色の経歴を持つ棋士の人生を好演!瀬川晶司六段の自叙伝を映画化した「泣き虫しょったんの奇跡」

松田龍平が主演を務め、35歳にしてサラリーマンからプロになった異色の棋士・瀬川晶司六段の自伝的小説を映画化したのが「泣き虫しょったんの奇跡」だ。本作のメガホンをとったのは、今年10月に公開予定の窪塚洋介と松田のW主演映画「次元を超える」でも監督、そして脚本を手がけた豊田利晃で、監督自身も17歳まで奨励会に在籍していたという経歴の持ち主。松田は本作でプロ棋士を目指す青年を演じるにあたり、撮影前から瀬川本人から将棋の指導を受けていたという。
瀬川といえば、"満26歳までに四段になれなかったら、日本将棋連盟の奨励会を退会、プロへの道を断たれる"という将棋界の鉄則を打ち破り、歴史を塗り替えた棋士。とはいっても、その道のりは決して順風満帆などではなく、「泣き虫しょったん」というタイトルの通り、挫折を経験しながら、周囲の人たちに支えられて夢を叶えていく。そんな孤高でもスーパーマンでもない主人公を、松田は心優しく不器用な人柄や、打ちのめされた時期の心理も含め、独特の淡々とした持ち味で丁寧に表現している。
松田の周りを固めるキャスト陣も野田洋次郎、永山絢斗、染谷将太、妻夫木聡、渋川清彦、松たか子、上白石萌音、美保純、イッセー尾形、小林薫、國村隼、藤原竜也と個性派揃い。現役プロ棋士も出演し、将棋好きには対局も見どころとなっている。
厳しい勝負の世界に生きる棋士のヒューマンドラマを描いた本作で、主人公を演じた松田の演技に焦点を当ててみたい。
■親友や父親、恩師たちとの関係が"しょったん"を成長させていく

(C)2018「泣き虫しょったんの奇跡」製作委員会 (C)瀬川晶司/講談社
物語は"しょったん"こと瀬川が小学生だった頃のエピソードから順を追って描かれていく。「何かに熱中することは素晴らしい」と、将棋が得意な瀬川を肯定してくれた担任の鹿島澤先生(松)に出会い、中学生になると、同級生で親友の鈴木悠野(野田)と自転車で将棋道場に通って、大人たちと対戦するようになる瀬川。2人の実力に驚いた席主(イッセー尾形)は奨励会に入ることを勧めるが、鈴木は勉強に専念することにし、プロになるように瀬川の背中を押す。
松田が瀬川を演じるのは奨励会というシビアな世界に足を踏み入れてからなのだが、そこからも「好きなことを仕事にしろ」と瀬川を応援する父(國村)など、人に恵まれているのが印象的だ。誰かに褒められたり、実力を認められたりしても戸惑うばかりのシャイで謙虚な瀬川を、松田は所作や表情など細やかな演技で表現している。
全員がライバルの奨励会でも敵を作らず、会員の冬野(妻夫木)にもその才能を嫉妬される瀬川。行きつけの喫茶店で働く真理子(上白石)にまで応援されるところに、瀬川の人柄の良さが出ているように思う。そんなシーンでの、キラキラの瞳で女子から見られてもどうしたらいいか分からない瀬川を演じた松田の困惑の演技にも癒される。
■初めてぶつかる大きな壁に苦悩する瀬川...松田の演技が胸に刺さる

(C)2018「泣き虫しょったんの奇跡」製作委員会 (C)瀬川晶司/講談社
26歳の誕生日までに四段にならないとプロ棋士を諦めなければならない。奨励会員の村田(染谷)に先を越され、さらには夢を諦めて退会していく仲間を目の当たりにし、それまで淡々としていた瀬川も"その日"が迫るにつれて重圧を感じるようになる。
小学生の頃からプロを目指して、ひたすら将棋と向き合ってきた瀬川の、強さと背中合わせの脆さ。一途であるがゆえに精神のバランスが崩れた時の危うさを、松田はリアリティのあるセリフと表情で体現している。そして、夢破れ、奨励会を去ることになる瀬川。ゼロになった彼は、親友の存在によって、いつのまにか将棋が楽しくなくなっていた自分に気づくことになる...。
瀬川が快挙を成し遂げるまでの小さな奇跡の積み重ねのストーリーを、松田の芝居と共にじっくりと味わってほしい。
文=山本弘子
放送情報【スカパー!】
泣き虫しょったんの奇跡
放送日時:2025年9月13日(土)16:30~
チャンネル:WOWOWプライム
※放送スケジュールは変更になる場合がございます
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