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西島秀俊の役への"没入の深度"を味わえる、"クズ男"を演じた映画「2/デュオ」

2025/08/29

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荒々しく無骨な刑事を演じたかと思えば、料理上手で倹約家の優しい弁護士に扮し、またある時は家族とうまく関係性を築けない天才マエストロに成り切るなど、硬軟自在の俳優・西島秀俊。特に、映画「ドライブ・マイ・カー」(2021年)での繊細な演技が日本だけでなく海外でも高い評価を受けたことは記憶に新しい。

武将、弁護士、音楽家、刑事、ヤクザ、演出家、自衛隊員など、さまざまな役柄を演じてきた彼のキャリアにおいても、特に珍しい役柄に挑戦している作品が2025年9月9日(火)に日本映画専門チャンネルで放送される映画「2/デュオ」(1997年)だろう。同作では、現在の彼のイメージとはかけ離れた"クズ男"をリアルに演じている。

同作品は、諏訪敦彦監督の長編映画デビュー作にして、脚本に頼らず演者の即興芝居を重視した意欲作。柳愛里と西島にはシチュエーションだけが伝えられ、どのようにストーリーが展開していくかも全て役者任せという独自の手法で、2人が演じるカップルの関係性や心模様の移ろいを紡いでいく。

■西島はクズな"ヒモ"役を違和感なく演じる

西島秀俊が
西島秀俊が"クズ男"を熱演

ブティック店員の優(柳)は、同棲している恋人で俳優志望の圭(西島)を支えながら暮らしていた。そんなある日、夢を追い続けることが負担になってきた圭が投げやりになり、優に冗談めいたプロポーズをしたことをきっかけに、2人の関係が次第に崩れ始める――というストーリー。

西島演じる圭は、俳優志望と言いつつも夢に向かって必死に努力しているわけでもなく、端役のサラリーマン役でありながら髭を剃らずに撮影現場に行ったり、現場で出番がなくなってしまっても特に悔しがることなく、せいせいした反応すら見せたりするほどで、ほとんど優の"ヒモ"として暮らしている。それでありながら優に対しては傲慢さが滲み、金の無心も「当たり前のこと」のように要求する典型的な"クズ男"だ。

そんな圭と圭に対して不満一つ漏らさず甲斐甲斐しく支える優の暮らしが描かれていくのだが、"クズ男"のヒモと彼を支えることにある種の喜びを感じている女性が織り成す歪な愛のかたちに、見ていて少なからず不快感を感じてしまうほど。この不快感は「第三者から見ると歪なのだが、当の本人たちにとってはごく自然な関係性である」というギャップが発生源となっているため、裏を返せば「不快感を感じてしまうほどに、2人の関係性が完璧に出来上がっている」といえる。

■即興芝居だからこそ見られる、西島のリアルなクズ男役

そこまで完璧に近い関係性を構築できているのは、2人が即興で芝居をすることにより、自然と芝居に血が通い、瞬間瞬間のリアクションにリアルさが伴うからであろうが、何より2人の役への深い没入があってこそ成立している。この没入感が深いからこそ、役としてセリフと行動に血が通るのだ。

例えば、2人で雑談を交わすシーンなど、間を埋めるために「何?」「ん?─何?」「何?」と会話のキャッチボールのボールをする場面があるのだが、脚本では絶対に出てこない場面だ。同じセリフを互いに何度も言い合って次の話題を探すようなやり取りは脚本ではあり得ないことで、筋書きのない中での会話だからこそ出てくるもの。この"即興芝居だからこそ生まれるもの"を、2人が本当の恋人同士に成り切り現場で生み出していることに驚かされるし、しかもそれを20代半ばでやってのけていることに言葉を失ってしまう。

これほどまでに役への没入感が深いからこそ、西島の"クズ男"っぷりが絶妙にリアルなのだ。急に怒りだしたり、勝手に出ていったと思えば電話で謝ってきたりと、演じるのではなく成り切っているからこそ出てくるナチュラルさで圭を構築している。

2025年9月12日(金)に公開される最新映画『Dear Stranger/ディア・ストレンジャー』では、セリフの90%以上が英語という新たな挑戦の中で、息子の誘拐という悲劇に見舞われたことで互いの本音や秘密が露呈して妻との溝が深まる夫役を演じる西島。我慢して蓋をしていた感情があふれてしまい変化した関係性に振り回される役どころに深く没入していることだろう。最新作での演技にも通じているであろう、彼の"役への没入の深度"を"クズ男"役での絶妙なリアルさで堪能してみてほしい。

文=原田健

放送情報【スカパー!】

2/デュオ
放送日時:2025年9月9日(火)21:30~ほか
放送チャンネル:日本映画専門チャンネル
西島秀俊、柳愛里、渡辺真起子、中村久美
※放送スケジュールは変更になる場合があります。

詳しくは
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