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黒沢清ホラーで光る役所広司の多彩な演技を「CURE」「回路」「ドッペルゲンガー」で振り返る

2025/08/31

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「CURE」
「CURE」

独自の世界観を築き、"Jホラー"の第一人者として知られる黒沢清監督の作品。その中でも注目したいのが、1997 年公開の「CURE」、2000年公開の「回路」、2003年公開の「ドッペルゲンガー」。これらの作品に共通するのが、俳優・役所広司の存在。黒沢監督と役所のタッグは、「CURE」に始まり、「ニンゲン合格」「カリスマ」「回路」「ドッペルゲンガー」「叫」「トウキョウソナタ」と続いた。

役所広司が刑事を演じ、不可解な殺人事件の真相を追う「CURE」
役所広司が刑事を演じ、不可解な殺人事件の真相を追う「CURE」

(C)KADOKAWA 1997

「CURE」は役所が主演を務めたサイコスリラー。1人の娼婦が殺害され、刑事の高部が現場に駆けつけると、被害者の胸に「X」字型の切り裂いた痕があった。その切り裂いた痕は、連続して起こっている殺人事件に共通しているものだった。同一犯による反抗であるならば、同じ手口として考えることができるが、実はそうではない。連続していると思われる殺人事件は、それぞれ犯人が異なり、殺害動機も違っていて、一見するとそれぞれが特立した"殺人事件"のように思えるものだった。共通するのは「X」字型の傷跡だけ。

この刑事・高部を役所が演じている。高部は友人の心理学者・佐久間(うじきつよし)に犯人の精神分析を依頼するが、謎は解明されず。そんな時に、自分が誰なのかも分からない"記憶障害"を持つ男・間宮(萩原聖人)が海岸を彷徨っているところを小学校の教師をしている男に助けられる。しかし、その男は間宮と会話を交わした後、何かの術中にかかったかのように妻を殺害してしまう。胸元には「X」字型の傷痕が...。

■心理戦、そして"正気"から"狂気"へ...役所広司と萩原聖人による迫真の演技合戦

(C)KADOKAWA 1997

役所が演じる高部は正義感の強い刑事で、プライベートでは精神疾患の妻を気遣いながら生活している。この作品の見どころは、高部と間宮の心理戦。高部の尋問をのらりくらりとかわす間宮の態度に苛立ちを見せたり、高部自身の精神も揺らぎ不安定になったり、1つの場面の中でも"正気"から"狂気"へと気付けば変化していく場面もあり、観ている者もその世界に引き込まれていく。周防正行監督の「Shall we ダンス?」や今村昌平監督の「うなぎ」、森田芳光監督の「失楽園」など、同時期にいろんなヒット作に出演していた役所だが、「CURE」は俳優としての新たな扉を開けることとなった作品だと言える。第10回東京国際映画祭のコンペティション部門に正式出品された本作で、役所は最優秀男優賞を受賞。黒沢監督が国際的に知られるきっかけにもなった。

■作品の象徴とも言えるほどの強い存在感を放った「回路」

「回路」は加藤晴彦と麻生久美子がメインキャスト
「回路」は加藤晴彦と麻生久美子がメインキャスト

(C)KADOKAWA 日本テレビ 博報堂 IMAGICA 2001

「回路」は、加藤晴彦と麻生久美子がメインキャストのホラー映画。1人暮らしで平凡なOL生活を送るミチ(麻生)の周囲で、同僚の自殺や勤め先の社長の失踪など、不可解な出来事が発生。大学生の亮介(加藤)は、アクセスしていないのに「幽霊に会いたいですか」というメッセージが浮かび上がる謎のサイトが開き、混乱している。やがて2人は出会い、次第に廃墟となる街で迫り来る恐怖に挑むことに...。ストーリーとしては、2000年頃のインターネット黎明期が舞台で、亮介は"右クリック"も分からないくらい、ネットに関する知識がない。当時、それは珍しいことではなく、まだネット普及率が低い頃で、多くの人が同じくらいの知識だったはず。"インターネット"の世界が未知なものだったからこそ、そこから繋がってしまう得体の知れない恐怖があった。この作品で役所は船長役として登場する。冒頭とエンディングのみの出演だが、ある意味、この作品の象徴とも受け取れる役なのかもしれない。


■1人2役で、"もう1人の自分"に翻弄される男を演じた「ドッペルゲンガー」

「ドッペルゲンガー」では1人2役を演じた役所広司
「ドッペルゲンガー」では1人2役を演じた役所広司

(C)2002「ドッペルゲンガー」製作委員会

そして「ドッペルゲンガー」。役所が主演を務めるこの作品は、彼の"1人2役"を見ることができる。ドッペルゲンガーは、自分自身の姿を自分で見る幻覚の一種で"自己像幻視"とも呼ばれている。それを見ると近いうちに死が訪れるという"死の前兆"と信じられていることも有名だ。小説においても"ドッペルゲンガー"を題材にしたものは世界中に多く存在する。「黒沢監督の手にかかれば、それはそれは恐ろしいホラーに仕上がったのでは...」劇場公開された当時、そのように思ったりしたこともあったが、観てみると、良い意味で予想を裏切るものになっていた。

人工人体の開発に取り組んでいるエリート研究者・早崎(役所)は、なかなかうまく開発を進められずにストレスが溜まる一方だった。そんなある日、早崎は自分の分身"ドッペルゲンガー"と出会った。その分身の目的は、早崎の研究を成功させることだという。死の前兆どころか、協力してくれるという意外な展開に驚かされるが、1人2役、早崎とその分身という、見た目は同じでも全然タイプの違う人間を演じ分けている役所の俳優としての凄さをしっかりと見せてくれている。ストレスを溜めて悩む早崎と、伸び伸びと生きている分身。"影"の存在である分身のほうが自由に生きていることに対し、早崎は殺意を抱き始めることに...。スラップスティック的なブラックユーモアに満ちた本作は、ホラーやサスペンスの枠を超えた作品となっており、役所も「CURE」の高部とはまた違う演技で観るものを引き込んでいく。

どの作品も黒沢監督とのタッグ作品ではあるが、それぞれ役所の違う魅力を引き出している。改めて黒沢監督の凄さと、役所の凄さを知れるので、ぜひチェックしてもらいたい。

文=田中隆信

放送情報【スカパー!】

CURE
放送日時:2025年9月22日(月)21:00~

回路
放送日時:2025年9月22日(月)23:00~

ドッペルゲンガー
放送日時:2025年9月23日(火)1:00~

ニンゲン合格
放送日時:2025年9月25日(木)22:40~

チャンネル:WOWOWシネマ
※放送スケジュールは変更になる場合がございます

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