石坂浩二と松嶋菜々子、揺るぎない個性と存在感が光る!市川崑が監督を務めた2006年版「犬神家の一族」

これまで何度も映画、ドラマとして映像化されてきた横溝正史の傑作推理小説「犬神家の一族」。1976年公開の映画版では金田一耕助を石坂浩二が演じ、大の横溝ファンだという巨匠・市川崑がメガホンをとり、空前の大ヒットを記録。その後1977年に古谷一行が耕助を演じたドラマ版も大きな話題を呼んだ。同時期には横溝による長編推理小説「八つ墓村」も映画化され、"横溝ブーム"が巻き起こった。
そんな時代を経て、約30年ぶりに市川が監督を務めて映画化されたのが2006年の「犬神家の一族」だ。本作でも1976年版と同じく石坂が耕助を演じ、ヒロイン的な役どころの野々宮珠世を松嶋菜々子が演じている。

(C)2006「犬神家の一族」製作委員会
「犬神家の一族」といえば当主・犬神佐兵衛の遺産問題で揉める中、自分本位で強烈な長女・松子と、その息子で不気味な仮面を被った佐清のキャラクターはあまりにも有名。湖から2本の足だけが突き出ている死体の映像など、今見ても夢に出てきそうなほどショッキングだ。本作では佐兵衛を仲代達矢、松子を富司純子、佐清を尾上菊之助が演じ、松坂慶子、萬田久子、岸部一徳、中村敦夫などのベテラン勢に加えて、奥菜恵、深田恭子、三谷幸喜らも出演。複雑に絡み合う家系の謎を推理していく探偵・金田一耕助をユーモラスに演じた石坂、そして佐兵衛の養女であり、遺言状の重要人物となる美女・珠世を演じた松嶋が見せた演技にそれぞれの揺るぎない個性が光る。
■ヨレヨレの着物にボサボサ頭の耕助は、石坂浩二が出発点

(C)2006「犬神家の一族」製作委員会
佐兵衛の遺言状から事件を予知した古舘弁護士事務所の所員・若林(嶋田豪)が東京から那須に呼び寄せたのが私立探偵の耕助だ。ヨレヨレの着物に釜帽子、くたびれた革のバッグを持ったファッションは原作を忠実に再現したもの。風貌からはどう見てもキレ者には見えないのだが、犬神家に起こる気味の悪い事件に警察が単純な判断を下す中、丁寧な調査と鋭い観察眼で事件の背景に切り込んでいく。一方で天然気味で身なりに無頓着、そして美人に弱い、そんな耕助を演じた石坂の演技は実にコミカルだ。滞在先のホテルで働くはる(深田)の目の前で髪の毛を搔きむしり、テーブルにフケを落として引かれたり、湖でボートを漕ぐ女性が犬神家に住む美人の珠世だと聞くとデレデレして望遠鏡で覗いたりと、一見、貧乏なポンコツ探偵。血なまぐさい事件に慣れているのかと思いきや、菊人形の首が本物の人間の首と挿げ替えられているのを見た時には腰を抜かさんばかりの悲鳴をあげ、石坂の狼狽する姿が笑いを誘う。日本の風土、文化に根ざした怖さに訴えてくる気味の悪さと、"よそ者感"満載の耕助を軽やかに演じた石坂の温度差も、本作のエンタテイメント性を高める大きな魅力となっている。
■和装の美女・珠世を演じた松嶋菜々子の堂々とした存在感も光る

(C)2006「犬神家の一族」製作委員会
遺言状に書かれていたのは松子、竹子、梅子の3姉妹を差し置いて、犬神家の財産の相続権と三種の家宝を珠世に譲るというもの。ただし、その条件は3人の息子・佐清、佐武、佐智のいずれかと結婚すること。この衝撃の内容に姉妹は醜い争いを繰り広げ、珠世は欲望と嫉妬が渦巻く人間模様に巻き込まれることになるのだが、戦争から帰ってきて変わり果てた佐清の姿に驚きながらも、その行動は非常に冷静だ。特に印象深いのは佐清を呼び出し、"昔、直してもらった懐中時計のペンダントを、もう一度修理してほしい"と頼む場面だ。圧のある姉妹にも仮面姿の佐清にも怯むことのない珠世を演じた松嶋の演技には、相手に有無を言わせないクールな美しさがあり、女優としてのオーラと資質が滲む。
名優たちの演技が彩る本作は、間違いなく時代を超越した名作である。
文=山本弘子
放送情報【スカパー!】
犬神家の一族(2006)
放送日時:2025年9月27日(土)23:30~、10月3日(金)18:30~ほか
チャンネル:WOWOWプラス 映画・ドラマ・スポーツ・音楽
※放送スケジュールは変更になる場合がございます
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