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西田敏行演じる金田一耕助が個性的!カルト的な人気を誇る隠れた名作「悪魔が来りて笛を吹く」

2025/10/24

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ミステリーの大家・横溝正史の小説は「犬神家の一族」、「獄門島」、「八つ墓村」など、多くが映像化されている。中でも有名なのは1979年に公開された映画「悪魔が来りて笛を吹く」だろう。金田一耕助役を西田敏行が演じ、監督はTVドラマで活躍した斎藤光正が務めた。角川春樹のプロデュースだが、東映の岡田茂社長が手腕を見込んで角川に製作を依頼したという経緯がある。

角川映画第一弾として大ヒットした「犬神家の一族」(1976年)の企画段階で、最後まで選択肢に残っていたという本作を選んだ角川春樹は、同作で金田一を演じた石坂浩二とは異なるタイプの西田敏行を主役にキャスティング。

金田一と言えば、片岡千恵蔵、高倉健、中尾彬、渥美清、古谷一行ら錚々たる名優たちが演じた大役。当時は石坂浩二の印象が強く、知的で線の細い金田一像がパブリックイメージになった。近年で金田一を演じた稲垣吾郎、長谷川博己、池松壮亮、吉岡秀隆、山下智久といった顔ぶれを見ても頷ける。歴代金田一耕助を列挙すると、西田敏行は異質であることがわかるだろう。

まして公開当時は、角川映画(東宝)の石坂浩二とTVドラマの古谷一行のどちらが好きかという論争があったくらいで、2人の人気が根強かった。公開当時、「西田は金田一のイメージと違う」と違和感を覚えた人が多かった。ところが、近年になって本作は再評価され、カルト的な人気を誇っている。公開当時はあまり歓迎されなかった西田敏行の演技も大いに見直されているのだ。

■西田演じる金田一は複雑な人物関係が織りなす難事件の謎に挑む

歴代の金田一のイメージを覆した西田敏行の演技は必見
歴代の金田一のイメージを覆した西田敏行の演技は必見

(C)東映

舞台は昭和22年、銀座の宝石店・天銀堂で毒物を使った殺人事件が発生し、容疑者として取り調べを受けた椿英輔子爵(仲谷昇)は、屈辱に耐えきれず自殺。子爵は「父はこれ以上の屈辱に耐えていくことができない。ああ、悪魔が来りて笛を吹く」と謎の遺書を遺していた。

父の無実を信じる娘の美禰子(斉藤とも子)は、金田一耕助に事件の調査を依頼。さらに母・秌子(鰐淵晴子)が死んだはずの夫を待で目撃したと怯えており、金田一が椿家を訪れた夜、子爵の生死を確かめるための「砂占い」が行われた。当日の深夜、椿邸に居候している玉虫公丸元伯爵(小沢栄太郎)が死体で発見される。部屋には鍵がかかっており、密室での惨劇であった。事件を追う金田一は、椿家の乱れた血縁関係と複雑な過去の因縁にたどり着く。やがて巻き起こる連続殺人。「悪魔」の正体に金田一が迫っていくが...。

主要登場人物を整理しておこう。椿家には、椿子爵の妻・秌子(鰐淵)、娘の美禰子(斉藤)のほか、第一の犠牲者・玉虫公丸元伯爵(小沢)、秌子の兄・新宮利彦(石濱朗)、その妻・華子(村松英子)が同居。さらに使用人の三島東太郎(宮内淳)とその妹・お種(二木てるみ)、秌子の乳母・信乃(原知佐子)、公丸の小間使い・菊江(池波志乃)、秌子の主治医・目賀重亮(山本麟一)も住む。これだけで十分複雑なのに、椿子爵の生死の謎や密室トリック、さらに近親相姦というタブーが事件の鍵を握る重要なファクターになっているなど、難解極まるストーリーになっている。

■ミステリーと言うよりヒューマンドラマとして捉えたい作品

(C)東映

複雑な人物設定に加えて、原作小説の真犯人の指が1本欠損しているという要素を省略したこともあり、ミステリー要素が薄まったことで、原作ファンには不評だった。だが、原作を知らずに見た人には物語上の支障はなく、本作は映画としての長所も数多いことが改めてわかる。

例えば音楽の素晴らしさ。人間国宝の尺八演奏家で、作曲家でもある山本邦山が手掛けた主題曲「黄金のフルート」が絶品で、サディスティック・ミカ・バンドのメンバーだった今井裕と共作した本作のサントラ盤は、映画史上に残る傑作とも評価されている。また、美術や照明など独特の映像美も高く評価され、「横溝映画で最も"恐怖"を感じさせる」作品とも言われる。

脚本の野上龍雄は、東映の任侠映画や時代劇で名を馳せたエース格。特に「必殺」シリーズで数多くの名作を残した。監督の斎藤光正にしても「獄門島」は手掛けたものの、本来はミステリーの人ではないことに注目したい。斎藤監督は、「俺たちの旅」や「ゆうひが丘の総理大臣」などのヒューマンドラマが天下一品で、人情劇を得意とする。

本作では、ミステリーに重きを置かずに、西田演じる金田一の人間味を重んじ、斉藤演じる美彌子との絆を中心に描いている。金田一を「先生」と呼んで慕う美彌子と、彼女の悲哀を全力で受け止め、全力で守ろうとする金田一の姿が胸を打つ。恋愛ではないが、強い感情で結ばれる2人の関係が印象深い。

■鰐淵晴子の妖艶な美しさはレジェンド級。豪華な脇役陣にも注目

そう思って本作を観ると、西田の演技は極めて独特だ。本作は代表作となる「池中玄太80キロ」の前年公開で、人気を博した「西遊記」の猪八戒役の翌年にあたる。コミカルな芝居が天下一品の西田だが、本作ではそれは抑え気味で軽妙ではあるが、カッコいいのだ。特に美彌子に向ける眼差しの優しさ、事件を推理する鋭い目つきに魅了されてしまう。斉藤も独特な雰囲気を醸し出して魅力的。「守ってあげたい」と思わせる純粋で素朴な少女らしさは、まさに彼女の真骨頂だろう。

共演陣では、まず鰐淵の妖艶な美しさは伝説的と言えるほど。重要な役だけに彼女の巧みな演技力が異常な設定の物語に説得力を与えている。「太陽にほえろ」の刑事役で人気を博し、本作の斎藤監督とドラマ「あさひが丘の大統領」でも主演としてコンビを組んだ。複雑な過去に翻弄される難しい役どころを体当たりで熱演している。脇役でも夏八木勲、梅宮辰夫、中村珠緒、浜木綿子と豪華な顔ぶれ。斎藤監督と縁が深い中村雅俊と秋野太作の「俺たちの旅」コンビも顔を見せてくれる。

公開当時の評価こそ高くなかったものの、時代を経て再評価されている「悪魔が来りて笛を吹く」は、見ごたえ抜群だ。西田が演じる金田一耕助は、むしろ原作のイメージに近いとも評されるようになった。特にラストシーンの余韻は素晴らしい。2025年11月2日(日)18:00から東映チャンネルで放送されるので、西田敏行版金田一の評価は、令和世代の視聴者に委ねるとしよう。

文=渡辺敏樹

放送情報【スカパー!】

悪魔が来りて笛を吹く(1979)
放送日時:2025年10月29日(水)20:30~
     2025年11月2日(日)18:00~(無料放送)
放送チャンネル:東映チャンネル
出演:西田敏行、夏木勲、宮内淳、斉藤とも子、鰐淵晴子、池波志乃、梅宮辰夫、浜木綿子
※放送スケジュールは変更になる場合があります。

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