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若き松田優作のパワフルな演技が絶品! 当時新人の舘ひろしとの対決場面も楽しめる映画「暴力教室」

2025/10/25

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1976年公開の映画「暴力教室」は、新任の一匹狼の教師と不良暴力学生グループの激突を描いたハードアクション作品だ。舘ひろしの記念すべき映画デビュー作であり、松田優作が東映で初めて主演を張り、本格的なアクションに挑んだ「原点」とも言える作品として、優作ファンの間では"必見の一本"とされている。

じつは松田優作にとって、本作はただの主演映画ではなく、彼の俳優人生を救った作品と言っても過言ではない。1973年にドラマ「太陽にほえろ!」(日本テレビ系)のジーパン刑事役でブレイクした松田は、1974年公開の映画「竜馬暗殺」や同年放送のドラマ「赤い迷路」(TBS系)など順調にキャリアを積み、1975年のドラマ「俺たちの勲章」(日本テレビ系)では中村雅俊とW主演を果たして人気も上昇していた。

しかし、松田は同作の鹿児島ロケの際に傷害事件を起こしてしまい、執行猶予付きの有罪判決を受ける。以降芸能生活を自粛しており、本作が復帰第一作だった。

■降板した千葉真一に代わり、謹慎中だった松田優作に白羽の矢

松田優作と舘ひろしのパワフルな対決場面は見逃せない
松田優作と舘ひろしのパワフルな対決場面は見逃せない

(C)東映

そもそも本作は当初千葉真一の主演で企画されたが、スケジュールの都合で千葉が降板。代役として岡本明久監督が強く推したのが松田優作だったのだ。謹慎中の彼を起用することに周囲は反対したが、岡本は松田にこだわり、「この役は断じて松田優作しかいない」と関係者を説き伏せた。

荒れ狂う学園で暴れる不良高校生を導く強い教師役には、松田優作以外考えられないと主張する岡本監督によって復帰がかなったのだが、この時の出演が実現していなければ、後年の松田の活躍はなかったのかもしれない。なお不良生徒役には、舘ひろしをはじめ、バンドデビューしたばかりのクールスのメンバーも出演している。

ストーリーは、体育教師・溝口(松田優作)が、名門私立高・愛徳学園に赴任する場面で始まる。だが、学園は不良生徒たちに支配され、溝口も不良グループのリーダー・喜多条(舘ひろし)からジャックナイフの洗礼を受ける。溝口はナイフを投げ返して、不良たちに対抗。その後も喜多条たちを厳しく指導する溝口に対し、喜多条らは授業を抜け出して校内外で無法の限りを尽くして対立。

一方、学園の理事長・石黒(安部徹)は、校長・難波(名和宏)らと結託し、学校の移転に伴う土地売却に絡んで裏金を獲得する不正を企んでいた。それを立ち聞きした理事長の娘・ますみ(結城なほ子)は、ショックで非行に走る。タバコやシンナーに溺れるますみを見つけた喜多条は、彼女をグループにひきずりこみ、性行為中の写真を撮って理事長・石黒を脅迫。石黒は事態の収拾を図るために溝口にネガを取り返すよう命じる。なんとか取り返すことは成功したものの、逆恨みした喜多条らは溝口の妹・淳子(山本由香利)に目を付ける...。

■クールスの面々をはじめ、安西マリア、南条弘二ら脇役陣も奮闘

(C)東映

その後は、ますみから理事長の汚職を相談された女性教師・花房(安西マリア)が学園幹部の不正を糾弾すべく立ち上がり、学園側は生徒会長兼剣道部主将の新田(南条弘二)に命じて親衛隊組織を結成させ、不良グループに制裁を加えるなど、波乱の展開となる。

本作の魅力は、なんといっても松田優作の圧倒的な存在感だ。型破りな「暴力教師」を熱演し、アクションシーンにも全力で挑んでいる。溝口は元プロボクサーだったが、試合中に対戦相手を死なせてしまい引退した過去を持っていた。そんな設定にも説得力ある柔らかな身のこなしで、中盤での喜多条との対決場面は迫力満点だ。

公開当時は、校内暴力が社会問題となっていて、時代背景を反映した硬派の作品として、教育現場の退廃を描いた点も評価できる。

本作がデビュー作となった舘ひろしは演技経験に乏しく、芝居自体は未熟な点は否めないものの、カミソリのようなシャープさを醸し出す風貌が魅力的だ。クールスのメンバーとバイクで疾走する場面が何度も挿入されるが、もともとバイクチームだった彼らだけに革ジャン姿も絵になっている。彼らが放つ危険な匂いは"本物"で、その魅力が画面から十分に伝わる。

また、安西マリアも華があって美しいが、後に所属事務所とのトラブルで早期に引退してしまったのが惜しまれる。アイドル出身の山本由香利は可愛らしい顔立ちで清楚な魅力を発揮し、悲劇的なヒロインを好演。敵役の南条弘二の不気味な迫力もいい。彼は一時期俳優業を休止していたが、90年代に復帰して刑事ドラマや時代劇などで大いに活躍した。

■舘ひろしも強烈な個性を放つ

(C)東映

粗削りな作品ではあるものの、松田優作という稀代の名優のカリスマ性に支えられた本作「暴力教室」は、映画史において重要な作品だ。撮影中の松田は、水を得た魚のように全力で演技をこなしたという。久々の撮影現場にいることが嬉しくてたまらなかったのかもしれない。

野獣のような強い生命感を漂わせつつ、どこかナイーヴでシャイ。心の優しさを垣間見せる独特な演技には誰もが魅了された。間合いも抜群で、クールスとの相性も良かった。舘ひろしとのケンカの場面では、演技経験のない舘にも丁寧にアドバイスしていたという。

一方の舘は演技経験が皆無だったため、長いセリフを嫌って短縮してもらったり、拘束時間の長さにも辟易したりと後に語っているものの、本格的に俳優業に進出していく。本作での芝居自体は素人レベルだったものの、画面映えする強烈な舘の個性は、確かに萌芽を感じさせた。1979年放送開始の「西部警察」(テレビ朝日系)にレギュラー出演して以降の活躍ぶりは、もはや周知の事実である。

キャラクターはシンプルで、決して洗練された作品ではないものの、若き松田優作の荒々しくパワフルな魅力を堪能できる映画「暴力教室」は、後年の「GTO」(反町隆史主演)などの学園ドラマの原点ともなっている。70年代の社会を揺るがせた「校内暴力」を描いたドキュメント的な側面を感じられることも魅力だ。

クールスのリーダーだった舘ひろしは本作の翌年に脱退してしまったので、佐藤秀光、村山一海、ジェームス藤木、水口晴幸、大久保喜市ら初期メンバーが一堂に会することでもファンには貴重な作品となった。カルト的な人気の映画であり、東映チャンネルでのオンエアは貴重な機会となるが、若き松田優作やクールスの雄姿を、現代の若い人たちにも見てもらいたい。

文=渡辺敏樹

放送情報【スカパー!】

暴力教室
放送日時:2025年11月7日(金)22:00~
放送チャンネル:東映チャンネル
出演:松田優作、舘ひろし、安西マリア、丹波哲郎、小畠絹子、室田日出男、安部徹、クールス
※放送スケジュールは変更になる場合があります。

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