吉行和子と妻夫木聡が見せる本物の親子さながらのやり取りに心温まる!蒼井優の好演も光る山田洋次監督作品「東京家族」
山田洋次監督が世界に語り継がれる小津安二郎監督の名作「東京物語」のオマージュとして制作したのが、2013年に公開された「東京家族」だ。2011年に公開予定だった本作は東日本大震災により、監督の意向で一度は制作が延期されることに。脚本を2012年5月の東京の設定に変え、老夫婦役に橋爪功と吉行和子、長女役に中嶋朋子というキャストを迎えての再始動となった。
1953年に公開された「東京物語」は、尾道に暮らす年老いた夫婦が、東京で暮らす子供たちを訪ねて上京する物語。親子関係をテーマに作品を制作してきた小津監督が、戦後の変わりゆく家族の形を描いた集大成と言われている。
(C) 2013「東京家族」製作委員会
そこから長い時を経て山田監督がメガホンをとった本作は、時代背景や人物設定は異なれど、ストーリーは小津作品を踏襲。親と子、生と死など普遍のテーマを浮かび上がらせ、山田監督ならではの持ち味も感じさせてくれる。
(C) 2013「東京家族」製作委員会
昔気質で気難しい父・周吉(橋爪)は、長男で開業医の幸一(西村雅彦)や美容院を経営している長女の滋子(中嶋)には普通に接しているものの、独身の昌次(妻夫木聡)のことは一人前と認めていない。そんな2人の仲を心配しているのが、穏やかな母・とみこ(吉行)だ。瀬戸内の島からわざわざ出てきた親たちをもてなしたくても、家の事情や日常に忙殺されてままならない姿がリアルに描かれる物語の中で、末っ子気質の昌次を演じた妻夫木の存在は、山田監督作品ならではの人情味を感じさせる。そして、夫婦の上京によって一家と触れ合うことになる紀子役の蒼井優も、物語に欠かせない役割を担っている。
■照れ屋だが心優しい次男を演じる妻夫木の、心の機微が伝わる演技
(C) 2013「東京家族」製作委員会
ボロボロになったクラシックタイプのイタリア車に乗り続け、舞台の裏方の仕事をしている昌次は、一家で最も心配されているポジションだ。独身で、兄や姉とは仕事の種類も違うため、昌次のことを"どうせ暇だろう"と思っている姉・滋子から「両親を東京見物に連れて行ってほしい」と頼まれ、文句を言いながらも断れない性格。3人で入った鰻店で周吉から仕事や将来のことについて説教され、親子喧嘩になる寸前に。しかし鰻重が席に届くとたちまち笑顔になり、真っ先に蓋を開ける。そんな昌次を演じた妻夫木の演技は末っ子そのもので、ふてくされた表情や、とみこにたしなめられて「わかったよ!」と鬱陶しそうにする場面は、本当の親子のようだ。長男・幸一と長女・滋子の家を行き来する夫婦だったが、自営業で忙しい両家に長くはいられず、ある日、とみこは昌次のアパートに泊まらせてもらうことにする。「親に会わせたいから」と紀子を呼んだものの、彼女だと言えず、照れ隠しで「掃除をしてくれる人」としどろもどろになる様子や、何もかも察したとみこに見せる嬉しそうな笑顔にも心温まる。母の愛情を体現した吉行の懐の深さと、それに身を委ねたような妻夫木が印象的だ。
■母の突然の死...昌次を支える紀子を蒼井が自然体で演じる
(C) 2013「東京家族」製作委員会
とみこが急逝し、周吉は放心状態。悲しみの中、葬儀を執り行う場所を話し合い、親族や近所の人が駆けつける葬儀の様子が俯瞰で映し出されていく。観る人がそれぞれの人生を重ね合わせる「東京物語」を踏襲しつつ、本作では昌次と紀子の存在が観る人の涙腺に訴えかける。母が旅立ったことを受け入れられずに涙を流し、屋上でひとり朝日を見ている父に嗚咽する昌次。紀子は病室で初めて昌次から家族を紹介されることになるのだが、周吉の難儀な性格に戸惑いながらも寄り添うしっかり者の紀子を、蒼井は嫌味なく自然と溶け込むような佇まいで表現している。
(C) 2013「東京家族」製作委員会
山田監督作品の特色でもある"人情"の部分を体現している妻夫木と蒼井に注目しつつ、その後の「家族はつらいよ」シリーズに繋がっていく本作をじっくりと味わってほしい。
文=山本弘子
放送情報【スカパー!】
東京家族(2013年)
放送日時:2025年1月8日(木)18:15~
チャンネル:衛星劇場(スカパー!)
※放送スケジュールは変更になる場合がございます
出演:橋爪功 吉行和子 西村雅彦 夏川結衣 中嶋朋子 林家正蔵 妻夫木聡 蒼井優
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