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2022/07/31

松雪泰子の演技に釘付け!珍しい坂口憲二の汚れ役も見れる松本清張原作のサスペンス「顔」

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サスペンスの帝王・松本清張の短編を原作とするドラマ「顔」は、過去に10回以上映像化されてきた。近年では、2013年にフジテレビ開局55周年特別番組として放送され、松雪泰子がヒロインを演じている。

原作小説では主人公は男性なのだが、映像化作品では1957年の岡田茉莉子主演をはじめ、女性が主役になるパターンが多い。ちなみに、同作が松本清張作品としては初の映画化だった。

2013年の松雪版は、時代設定は昭和22年とその9年後としている。まずはあらすじを紹介しよう。舞台は戦後間もない九州。小暮涼子(松雪)は、アメリカ兵相手に大衆酒場で働きながら女優になる夢を描いていた。酒場で出会った男・飯村(坂口憲二)と交際を始め、女優になる夢を打ち明ける。すると飯村は「オレは映画監督と知り合いだから紹介してやる。だが、そのためには金が要る」という。

 悪役の雰囲気が漂う坂口憲二
悪役の雰囲気が漂う坂口憲二

(C)フジテレビジョン

夢をつかむために涼子は、それまで懸命に働いて貯めた大金を飯村に渡す。しかし、飯村の話は真っ赤なウソだった。復讐に燃える涼子は、飯村の殺害を決意。完全犯罪を目論んで飯村を葬り去ったのだが、1つだけ誤算があった...。道中で、飯村がかわいがっていた真奈美(田中麗奈)と遭遇していたのだ。

(C)フジテレビジョン

時は流れ、上京した涼子は女優になり、ついに主演映画のオファーが舞い込んでくる。大女優へのステップアップとして千載一遇のチャンスだったが、秘密を知っているかもしれない真奈美の存在に怯える涼子は、ある決意を固めるのだった...。

本作の魅力は、とにかく主演の松雪泰子の演技に尽きるといっていい。相当な意欲をもって涼子役に挑んだと思える彼女の本気度が伝わってくるようで、全編が静かな迫力に満ちている。冒頭でのみすぼらしい姿も真に迫っていたが、飯村の言葉を健気に信じてしまう弱さと純粋さにも惹かれる。そして飯村の正体を知った時の激しい怒り...。殺意を抱くまでの狂気を納得させるほどの表現力には脱帽ものだ。

(C)フジテレビジョン

一転して、上京してからの涼子の変身ぶりも見事だ。自分の夢のためにはどんなこともする、恐ろしいほど貪欲な女と化した涼子。過剰な上昇志向と、過去に翻弄されて怯え、やがて堕ちていく...。一遍のドラマの中で、ことごとく変幻する女性像をなんの違和感もなく、説得力をもって表現できる女優は希少ではないだろうか。今の若手で誰がこの役にふさわしいか、想像してもあまりピンとこない。それほど、松雪の涼子像はまさに適役だった。

(C)フジテレビジョン

悪役を務めた飯村役の坂口憲二も好演している。端正な顔立ちとスポーツマンの印象が強く、本作のような女を騙して殺されるような汚れ役は珍しいが、涼子に暴力を振るう場面など、緊迫感と迫力を感じさせて俳優としての力量を見せつけている。ただ、バイオレンスシーンや性描写にも深みを感じさせるのは、演出の巧みさもあったように思える。演出は『西遊記』(2006年)などを手掛けた澤田鎌作が担当しているが、近年の地上波のドラマではここまで踏み込んだ表現が難しくなっているので、ある意味でいい時代だったのかもしれない。

時代設定自体が古いため、全体的にレトロな雰囲気が漂っているがそこも味わい深い。女優・松雪泰子にとってもチャレンジだったと思うが、当時はすでに女優として十分な実績を積んでおり、彼女自身にも上昇志向は健在だったのだろう。最近でもWOWOWの『邪神の天秤 公安分析班』(2022年)において、クールな公安刑事役を好演していた。

近年では珍しくなった、制作陣と俳優たちの気概が伝わってくるような良作をぜひ見てもらいたい。

文=渡辺敏樹

放送情報

松本清張:顔(2013/10/3)
放送日時:2022年8月2日(火)09:30~、8月7日(日)02:00~
チャンネル:ホームドラマチャンネル
※放送スケジュールは変更になる場合があります

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