まるで江戸時代版ロミジュリ!藤沢周平原作の「蝉しぐれ」で内野聖陽が見せた色男モードの破壊力

男性同士のカップルの生活を描いた「きのう何食べた?」(2019年テレビ東京系)や「スローな武士にしてくれ〜京都 撮影所ラプソディー〜」(2019年NHK BSプレミアム)、三谷幸喜脚本の大河ドラマ「真田丸」(2016年NHK総合)の徳川家康役(伝説の伊賀越え!)など、近年はコミカルな演技を見せることが多い内野聖陽。そんな彼が色男モード全開で藤沢周平の小説の主人公を演じた連続ドラマ「蝉しぐれ」がWOWOWプラスで放送される。2003年にNHKで制作・放送され、第44回モンテカルロ・テレビ祭ゴールデンニンフ賞最優秀作品賞など、国内外の賞を獲得した傑作時代劇だ。
藤沢周平の小説でおなじみ、東北にある架空の藩・海坂藩を舞台に、下級武士の牧家の養子である文四郎(内野)とその隣家に住んでいたが藩主に見初められ側室となる、ふく(水野真紀)の許されざる恋が展開。文四郎は藩内の勢力争いによって尊敬する養父を失い屋敷も取り上げられて長屋住まいという境遇になり、ふくは文四郎を想いながらも藩主のお手つきとなり、男児を産んだために跡目争いに巻き込まれていく。封建社会の中、思うように生きられない男女の切なさと、そんな状況でも人と人とのつながりを大事にする心の美しさが丁寧に描かれている。

文四郎とふくは美男美女で、その容姿に惹かれ合っただけではなく、最も苦しい瞬間にお互いを助け合い、絆を強めてきた。ふくは少女の頃、蛇にかまれた毒を文四郎に吸い出してもらい、文四郎は切腹させられた養父の遺体を荷車で屋敷まで運ぶ際、その重みで坂道を上がれず、絶望していたところをふくに力づけられる。そして、お互いの生きる道が別れた後も、ふくが藩主の子を産み、主席家老から命を狙われると、文四郎は命がけでふく母子を守ろうとする。まるでロミオとジュリエットのような悲恋が、いったいどうなるのかと、全7話のラストまで見る者を引き付ける。


内野聖陽は、このとき35歳。真面目な性格だが内に熱い正義感を秘めた役どころを熱演している。文四郎が自分を慕うふくから「文四郎様...!」と抱きつかれ、恋情に襲われて耐えるように目を細めながらそっと彼女の肩を抱く場面も様になる。何より、文四郎が藩の上層部の権力争いから理不尽な目に遭うものの、やがて実力を認められていく様子を応援したくなるのは、内野が現代のサラリーマンの立場にも通じるこの役を真摯に演じているからこそだろう。
また、文四郎は藩にある剣術道場のエースであり、席次1位。秘剣村雨(ひけんむらさめ)という技を伝授されるほどの腕前で、徹底した役作りをする内野だけに、殺陣を相当やり込んだようだ。そして、この後、大河ドラマ「風林火山」(2007年NHK総合)に主演するなど、内野が時代劇で活躍する時代が続いていく。
内野演じる文四郎がロミオなら、ジュリエットに当たるふく役の水野真紀も、情感たっぷりの表情で好演。約20年前の作品で、大河ドラマ『鎌倉殿の13人』(2022年NHK総合)で怪演を見せた佐藤二朗、人気脚本家の宮藤官九郎、映画監督の塚本高史が脇役で出演しており、彼らの若い頃の姿が見られるのも"お宝映像発掘"というノリで楽しめる。
文=小田慶子
放送情報【スカパー!】
蝉しぐれ(全7話)
放送日時:2022年9月19日(月)12:00~
チャンネル:WOWOWプラス
※放送スケジュールは変更になる場合があります
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