ディーン・フジオカが「パンドラの果実~科学犯罪捜査ファイル~」の圧倒的演技で魅せる「正気」と「狂気」

香港を拠点に芸能活動をスタートさせ、2015年より日本に活動拠点を移してから、NHK連続テレビ小説「あさが来た」(2015年)の五代友厚役で一気に知名度を上げたディーン・フジオカ。以降、さまざまな話題作に出演して日本での俳優としての地位を確固たるものにした。その才能は俳優業だけにとどまらず、シンガーソングライター、映画監督、モデルなど活躍の場は多岐にわたる。そんな多才な彼の俳優としての圧倒的な演技力を堪能できる作品がドラマ「パンドラの果実~科学犯罪捜査ファイル~」だろう。
同作は、中村啓の小説「SCIS 科学犯罪捜査班 天才科学者・最上友紀子の挑戦」をドラマ化したもので、「能力を上げる脳内チップ」「自我を持つA.I.ロボット」「若返りウイルス」といった法整備や警察機構の対応が追い付いていない最先端科学にまつわる事件の捜査を担当する科学犯罪対策室の活躍を描く。科学犯罪対策室を創設した警察官僚・小比類巻祐一(ディーン・フジオカ)は、メンバーとして元捜査一課のベテラン刑事の警部・長谷部勉(ユースケ・サンタマリア)を指名し、アドバイザーとして天才科学者・最上友紀子(岸井ゆきの)を招へいして3人で数々の難事件の解決に挑む。
ディーン演じる主人公の小比類巻は頭脳明晰で科学への造詣が深い人物で、クールで冷静沈着なイメージのディーンにぴったりの役に感じられる。さらに、「科学の光を信じ、科学は人類を幸せにしてくれる」と信じるロマンチストな一面を持ち、「5年前に最愛の妻を亡くし、シングルファザーとして幼い一人娘を育てている」という真っ直ぐで愛情豊かな役柄ははまり役だ。
ここまでの要素を見ると、小比類巻ははまり役だけにディーンがどのような演技を見せてくれるのかというのは想像に難くないだろう。悪く言えば「イメージ通りの演技にとどまる」とも言える。しかしながら、小比類巻を構成する要素はそれだけではなく「 "妻に関するある秘密"を抱えている」という要素があり、それによってディーンの圧倒的な演技力が見られる。

(C)中村啓・光文社/ NTV・HJホールディングス
"ある秘密"というのは"妻の遺体を冷凍保存している"ことで、これが物語の縦軸となりさまざまな謎がつながってクライマックスに向かっていく。ディーンはあくまでこの秘密を「自ら口にすることではないが、必死に隠すようなことでもない」というスタンスで演じ、「いろんな考え方があって、人によっては『気持ち悪い』と感じる人もいる。ただ、それを押しても自分はいつか妻を復活させたい」と、ある種歪んだ思いであることを重々承知しながらも、自身の信念を貫く人物として表現。
ドラママニアやディーンファンなら、ここまででも(ディーンの演技は)想定内だろう。だが、ここからがすごい。歪んだ思いであることを頭では分かっている小比類巻なのだが、その根底には"(あくまで今現在のマジョリティーの死生観に依るが)死者を冷凍保存するという異常性"を容認しているという"狂気"がたゆたっており、自分自身でそれに気づいていないのだ。
愛ゆえの"狂気"。それに突き動かされた末に科学犯罪対策室を創設したという事実。妻を甦らせるために最先端の科学に触れられる場所を自らつくるという常人では成し得ない行動の末にこの物語が始まっていることに気付かされた瞬間に、ディーンの"隠しながらほのかに香らせていた異常性"を表す演技とリンクし、観る者の背筋は凍るはずだ。そして、これを事件を解決する主人公という立ち位置で演じ切っているところにも唖然とさせられる。
さらに、物語の終盤には"異常なほど深い愛"を向けている家族に犯罪者の手が伸びると、それまでほのかに香らせていた狂気が開放する。持ち前の冷静さは鳴りを潜め、まるで犯罪者のように荒々しく暴力的に人が変わる。「別人格のように変わる」ということではなく、あくまで小比類巻のまま「狂気が開放された状態に変わる」のだ。この変わり様による"正気"と"狂気"のバランスが絶妙で、「真面目で一本気な人物だからこそ一歩踏み外すとここまで変化してしまう」という人間らしさまでも表現しており、その演技力で物語をラストまで引っ張っている。
まさに、これまでのディーンでは見られなかった、彼の演技力の深淵まで覗くことができる役だと言えるだろう。最先端科学をテーマにした事件の謎の真相を楽しみながら、ディーンの圧倒的な演技力の沼にはまってみてはいかがだろうか。

(C)中村啓・光文社/ NTV・HJホールディングス
文=原田健
放送情報【スカパー!】
パンドラの果実~科学犯罪捜査ファイル~
放送日時:2022年11月27日(日)11:00~
チャンネル:ファミリー劇場
※放送スケジュールは変更になる場合があります
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