伊藤沙莉が表現する日常の中のリアルな感情!新たな一面を見せた、映画「ちょっと思い出しただけ」

近年、その活躍が目覚ましい伊藤沙莉。子役時代から真摯に演技力を磨き、身近さもありながらコメディもシリアスもこなす。いそうでいない個性派女優へと成長した。昨年は第45回エランドール賞新人賞や第63回ブルーリボン賞助演女優賞を受賞、初のフォトエッセイ「【さり】ではなく【さいり】です。」の刊行、舞台「首切り王子と愚かな女」への出演など、まさに飛躍の年となった。
今年もドラマ「拾われた男 Lost man Found」や新海誠監督の最新アニメーション映画「すずめの戸締まり」など、立て続けに話題作に出演。映画「月の満ち欠け」も12月2日(金)に全国公開を控えている。ドラマや映画、舞台に声優とどんなジャンルでも、作品に安定感と一癖を加えてくれる稀有な存在だ。

(C)2022『ちょっと思い出しただけ』製作委員会
役者としての"第2章"を歩んでいる伊藤だが、今年2月に公開されたラブストーリー「ちょっと思い出しただけ」では、また新たな一面を見せた。12月11日(日)にWOWOWシネマで放送される本作は、松居大悟監督が人気バンド・クリープハイプの楽曲「ナイトオンザプラネット」にインスパイアされて描いた、初めての完全オリジナルラブストーリー。同曲を主題歌に、池松壮亮と伊藤がW主演を務め、第34回東京国際映画祭では観客賞とスペシャル・メンションをW受賞するなど好評を博した。
ステージ照明の仕事をしている佐伯照生は、34回目の誕生日を迎えたその日にもダンサーに照明を当てている。一方、タクシー運転手の野原葉は、ミュージシャンの男を乗せてコロナ禍の東京の夜の街を走っていた。男を降ろした後、自身もタクシーを降りると、どこからか聴こえてくる足音の方へ歩いていく。彼女の視線の先にはステージで踊る照生の姿があった...。

(C)2022『ちょっと思い出しただけ』製作委員会
時はさらに1年ずつ遡り、照生と葉の恋の始まりや、出会いの瞬間が丁寧に描かれていく。不器用な2人の二度と戻らない愛しい日々を"ちょっと思い出しただけ"。2人の6年間にわたる恋愛が、現在から過去へと次第にさかのぼるトリッキーな話術で繊細に切なく映し出される。
伊藤はタクシー運転手の葉を演じた。ハンドルさばきも客への接客も板についていて貫禄さえ感じる。些細な反応や言動に違和感がなく、戸惑いや悲しみ、怒りや喜びをリアルな日常の中で、自然に演じていた。池松演じる照生との会話も1年ごとに微妙に変化しているのも見逃せない。
運転席と助手席でのケンカ別れにはじまり、仲睦まじくベッドでじゃれあう姿や忍び込んだ水族館でのデートも、終わりを知っているからこそ一層輝いて見える。感情を素直にぶつけたり、泣いたり、笑ったり...恋をしている葉の表情が可愛らしい。出会いの年の飲みながら歩いて帰る絶妙な距離感が胸を締めつけ、酔っ払って楽しげに踊る2人はまさに恋愛映画のワンシーンそのもの。過ぎ去った思い出の中の不器用さが愛おしい。

(C)2022『ちょっと思い出しただけ』製作委員会
丁寧な人物描写に定評のある松居監督による物語で、繊細な表現が求められる役どころだが、一瞬の表情や会話の間に、野原葉という一人の女性の感情がきちんと存在していた。うまくいったり、いかなかったり、時に思い出したくなる過去があっての今の自分。長いキャリアを持つ伊藤だからこそ、リアリティのある人物として成立させている。これまでに見せたことのないような彼女の表情もまた魅力的に映り、余韻の残るラストシーンが切なかった。
文=中川菜都美
放送情報【スカパー!】
ちょっと思い出しただけ
放送日時:2022年12月11日(日)21:00~
チャンネル:WOWOWシネマ
※放送スケジュールは変更になる場合があります
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