聖夜の東京で巻き起こる爆破事件...西島秀俊がアウトローな刑事を演じる映画「サイレント・トーキョー」

街を彩るイルミネーションが美しいクリスマスイブ。人でごった返す東京で爆破テロが起きたら――？現実離れではありながらも、ありえないこととは言い切れない事件が勃発する映画「サイレント・トーキョー」。本作は佐藤浩市、石田ゆり子、西島秀俊、中村倫也、広瀬アリスら豪華キャストが出演したクライムサスペンス。原作は、篠原涼子主演の大ヒットシリーズ「アンフェア」などでも知られる秦建日子の同名小説で、波多野貴文がメガホンをとった。

犯人からの相次ぐ爆破予告に対する総理の声明が、ハイヴィジョンのモニターに大きく流れるシーンが印象的な本作。コロナ禍前の2019年に撮影されたもので、栃木県・足利競馬場跡地に、渋谷のスクランブル交差点の巨大セットを建設。1万人を超えるエキストラを迎え、爆破シーンだけで撮影に2週間費やしたという。

そんな中、本作で西島が演じているのは渋谷刑事課の警部補・世田。世田のバディ・泉を勝地涼が演じる。事件以前は平和だった日本が舞台となっている物語だが、事件を追う世田は一瞬たりとも気を抜かない緊迫感をまとっている刑事だ。底知れない何かを抱えているような、西島の飢餓感を感じさせる佇まい、佐藤や中村との共演も見どころのひとつだ。

■キレ者刑事を演じる西島の鋭い視線にドキッとさせられる

最初に爆弾騒ぎが起こるのは恵比寿のショッピングモール。その様子をカフェのテラスから見ている謎の男・朝比奈(佐藤)と若くしてIT企業の社長を勤め、恵比寿の高級マンションに住む須永(中村)は、2人とも不可解な人物として登場する。相棒の泉から事件の資料を渡されても、「かえって捜査の妨げになる」と受け取らない世田は、面識のない須永とマンション近くの路上ですれ違っただけで「きな臭さ」を感じとり、職務質問をする。事件について淡々と答える須永に「珍しい方ですね。皆さん興奮気味に喋ってくるのに〜」と眼光鋭く返す世田。こんな眼をした刑事に近づかれたら逃げられない。そう直感するような男を演じる西島が刺激的だ。

■爆破で吹き飛んだ渋谷ハチ公前...容疑者たちと対峙する西島

アイコ(石田)とTV局でアルバイトする来栖(井之脇海)が犯人に仕立てあげられる中、声明通りに渋谷が爆破される。現場は厳戒態勢にも関わらず、面白半分で集まった大勢の人たちは呑気にクリスマスのカウントダウンを行い、その直後に大惨事が起きる。爆風で人々が吹き飛び、犯人を追っていた世田も怪我を負うが、そんな中で泉も重傷で倒れてしまう。同じく事故に巻き込まれた真奈美(広瀬)から須報を得て、知っていることを全て話せと世田は須永に銃口を突きつける。世田は無感情だった須永の口を割らせ、朝比奈と対峙することに。迫力はあるが、熱血型というよりアウトローに近い世田。容疑者たちの声を聞いている時の表情には憎しみや同情の一言では表現できない複雑さがあり、西島の奥深い演技が光る。果たして世田は一連のテロ事件を起こした真犯人を突き止めることができるのか？戦地での壮絶な体験がトリガーとなり、復讐が暴走する事件の中、世田という役柄は視聴者に多くのことを想像させるポジションを果たしているように思う。

文＝山本弘子