メインコンテンツに移動

2023/01/25

松本まりかが「雨に叫べば」で見せた、ひと皮むけた表現に刮目せよ

この記事を共有する

「雨に叫べば」に出演する松本まりか
「雨に叫べば」に出演する松本まりか

「カメレオン女優」としてさまざまな役を変幻自在に演じる松本まりか。出演する作品によって全く違う顔を見せ、その表現の多様さで世間を魅了し続け、観る者の期待感を増幅させてくれる。そんな彼女が、「全裸監督」「ミッドナイトスワン」などの話題作を手掛けた希代の監督・内田英治との素晴らしい化学反応を見せた作品が「雨に叫べば」が、日本映画専門チャンネルで2月3日(金)22:50にテレビ初放送される。

同作品は、男性優位だった80年代の映画業界を舞台に、デビュー作に挑む女性監督の奮闘を描いたもの。内田監督が脚本も手掛け、新人監督の成長を当時の業界への皮肉や映画愛を込めて活写している。1988年、初監督作の官能映画の撮影に意気込む花子(松本)だが、気合が先走ってベテランスタッフには見下され、キャストのわがままにも振り回され、現場は混乱を極める。その挙句、監督交代の危機まで迎えてしまう、というストーリー。

花子を演じる松本は、観客の期待以上の演技で新人監督の繊細な心の機微を表現。例を挙げると、冒頭から約10分、花子は全く喋らないのだが、喋ってないことに気付かないくらい豊かに花子の心情を表している。そして、10分後に初めてセリフを発するタイミングで、それまで喋っていなかったことに気付かされるのだ。それは松本が、発声以外の全てを使って役の気持ちを表しているからに他ならない。加えて、不安そうな表情や自信なさげな所作、泳ぐ目、周りに圧倒されて怯えていることを雄弁に語る背中などで感情を表現しながらも、何を考えているのかは分からないように演じているため、画面の花子から目を離せなくなる効果も生み出している。開始10分、一言も発さずに観客の気を引き続ける...これだけでも「カメレオン女優」の演技力を十二分に楽しめるだろう。

花子は「女性であること」「新人であること」から、現場ではベテランスタッフから軽んじられ、俳優たちからも無理難題を突き付けられて、「デビュー作だからしっかりと細部にこだわって良い作品にしたい」という思いがありながらも、スケジュールや予算の都合、映検(映画のレイティングを判断する機関)にまつわる商業映画としてのルールなどにがんじがらめにされ、半ば強制的に妥協させられていく。クリエイターとして尊厳を踏みにじられるような日々を送りながら、次第に鬱憤が溜まっていく中、作品にとって絶対になくてはならないと考える「雨降らし」までも時間と予算を理由に奪われてしまう。周りには誰一人味方がおらず、ただただ自分のデビュー作が汚されていくやりきれなさに、花子は感情が決壊して号泣する。この溜めて溜めて溜め込んだ気持ちが一気に爆発する場面は、松本でなければ表現しきれないであろうギャップを見せており、松本の演技の幅の広さを感じさせてくれる。

そして何より、一番すごいのがクライマックスのシーンだ。予定通り進まない上、現場が混乱を極めているという状況に、スポンサーは監督の交代を宣告。夢破れ、1人現場から去ることになった花子をよそに、現場では助監督が監督となり撮影を再開することになるのだが、その後の花子の変貌ぶりは必見だ。物語のラストに言及してしまうため詳細は割愛するが、松本が作り上げた花子の「ひと皮むけた」変化に万人が驚かされることだろう。何かを吹っ切って腹をくくった女性の強さに、心から手を叩きたくなるはずだ。

カメレオン女優・松本まりか×希代の監督・内田英治による化学反応から生まれた松本の演技の深みや幅の広さ、引き出しの多さなどを感じながら、ひと皮むけた女性を松本がどのように表現したかにも注目してほしい。

文=原田健

放送情報

雨に叫べば(R-15版)<R-15>
放送日時:2023年2月3日(金)22:50~
チャンネル:日本映画専門チャンネル
※放送スケジュールは変更になる場合がございます

関連人物から番組を探す

映画の記事・インタビュー

more