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安田顕が普通の男を演じながらも圧巻の芝居で胸を打つ...映画「母を亡くした時、僕は遺骨を食べたいと思った。」

2023/01/27

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「母を亡くした時、僕は遺骨を食べたいと思った。」に出演する安田顕と倍賞美津子
「母を亡くした時、僕は遺骨を食べたいと思った。」に出演する安田顕と倍賞美津子

演劇ユニット「TEAM NACS」のメンバーで、硬派な役から個性的な役までさまざまな役を演じ分ける安田顕。主演、助演も、垣根なく変幻自在に幅広く演じ、2022年は春夏秋冬の全クールで民放ドラマに出演していたほど、あらゆる作品に引っ張りだこの俳優だ。そんな安田の圧倒的な演技力が堪能できる作品が映画「母を亡くした時、僕は遺骨を食べたいと思った。」だろう。

(C)宮川サトシ/新潮社 (C)2019「母を亡くした時、僕は遺骨を食べたいと思った。」製作委員会

同作品は原作者・宮川サトシの実体験を綴ったエッセイ漫画を実写映画化したもので、癌を告知された母と息子が過ごした日々と、その後の物語を描く。幼い頃から病弱だったサトシ(安田)は、母・明子(倍賞美津子)の愛情に救われてきたが、母が癌を告知されてしまう。サトシは百度参りや国産野菜ジュース作りなど母を支えようと無我夢中になるが、2012年春に母との永遠の別れが訪れる。

今や癌は日本人の2人に1人が生涯で患う病気であり、日本の死因第1位という最もポピュラーなものとなっている。この作品は、そんな「癌で亡くなる」という日本人にとって最も身近な死を題材に、誰もが必ず経験する大切な人との別れや死というものとの向き合い方を改めて問うものになっており、例外なく、観た者全員の心に刺さる。

そして、全員の心に刺さっているというのは物語の題材だけでなく、ストーリーという屋台骨を出演者たちの名演が柱として支えているからに他ならない。安田を筆頭に、倍賞、松下奈緒、石橋蓮司といった実力派の役者たちが見せる芝居は、観る者を否が応でも作品の世界観に引きずり込んでいく。

(C)宮川サトシ/新潮社 (C)2019「母を亡くした時、僕は遺骨を食べたいと思った。」製作委員会

中でも、主演を務める安田の芝居は圧巻。安田演じる主人公のサトシは、精神的に少々幼さのあるマザコン気質のキャラクターではあるが、(実話を基にしているため当たり前なのだが)基本的にごく普通の男性で、演じる側としてはかなりハードルが高い。というのも、どこにでもいる普通の男性を演じながら、観る者の気を引き続ける「吸引力」を纏い続けなければならないからだ。

(C)宮川サトシ/新潮社 (C)2019「母を亡くした時、僕は遺骨を食べたいと思った。」製作委員会

しかし安田は、母との何気ないシーンにおける照れ隠しからくる邪険な対応や、母の病気を受け入れられないさま、1人では処理できない事柄に直面してキャパオーバーしてしまう瞬間など、普通の人の「普通でない状態」を人間味あふれる演技で表現することにより、「吸引力」を発生させ続けている。

特に、泣きの芝居は筆舌に尽くしがたいほど素晴らしい。作中、泣きのシーンは1度ではなく何度も訪れるのだが、その全てにおいてバリエーションが違う。土台となる「悲しみ」や「切なさ」は変わらないのだが、その配合と場面場面で異なる感情というスパイスによって千態万状に形を変えている。そんな芝居を体現できるのも、同じシチュエーションなどない瞬間瞬間を、役として生きているからだろう。

(C)宮川サトシ/新潮社 (C)2019「母を亡くした時、僕は遺骨を食べたいと思った。」製作委員会

安田が演じる「普通の男」の、誰もが必ず経験することでありながら「普通ではない事態」である「大切な人の死」との向き合い方に心を揺さぶられながら、安田が発する吸引力の源にも注目してほしい。

文=原田健

放送情報【スカパー!】

母を亡くした時、僕は遺骨を食べたいと思った。
放送日時:2023年2月16日(木)21:25~
チャンネル:映画・チャンネルNECO
※放送スケジュールは変更になる場合がございます

詳しくは
こちら

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