「別れる決心」の鬼才パク・チャヌク、世界中の映画ファンを魅了し続ける「強烈な作家性」

韓国の鬼才、パク・チャヌク監督による6年ぶりの最新作「別れる決心」が、第75回カンヌ映画祭の監督賞をはじめ、本年度の賞レースを賑わせている。有力視されていた第95回アカデミー賞国際長編映画賞には選出されなかったものの、世界の批評家からの評価も高く、2月17日(金)の日本公開に向けて、ますます注目を集めている。

本作は、男が山頂から転落死した事件を追う刑事ヘジュン(パク・ヘイル)と、被害者の妻で事件の容疑者でもあるソレ(タン・ウェイ)の出会いから始まるサスペンスロマンス。取り調べが進む中で、いつしかヘジュンはソレに惹かれ、彼女もまたヘジュンに特別な想いを抱き始める。やがて捜査の糸口が見つかり事件は解決したかに思えたが、彼らはさらなる"愛の迷路"へと突き進んでいく。

韓国では、公開後に発売された脚本集がベストセラーになり、劇中のセリフがネットで大流行。BTSのリーダー、RMが繰り返し鑑賞したことをSNSで報告するなど、若者の間でも話題を呼んだ。昨年12月、5年10ヶ月ぶりの来日を果たしたチャヌク監督は、観客とのティーチイベントにおいて「本作を観た観客の皆さんは、『2回以上観るとさらに面白い』と言ってくれています」と語っており、予想外の展開や細部までこだわり抜かれた映像美、へジュンとソレのスリリングな駆け引きなど、その世界観にハマり込む人が続出している。

チャヌク監督は、これまでにも中毒性のある作品群を世に送り出している。本作の公開に向け、ＷＯＷＯＷシネマでは「パク・チャヌク監督特集」と題して、"復讐三部作"の1本に挙げられる代表作「オールド・ボーイ」(2003年)を皮切りに、「渇き」(2009年)や「お嬢さん」(2016年)といった3本がオンエア。世界が惜しみない称賛を贈るチャヌク監督作品の魅力にたっぷりと触れられる機会となっている。

「オールド・ボーイ」は日本の劇画「ルーズ戦記　オールドボーイ」を原作に、15年間もの監禁生活を強いられた男性による復讐を描く衝撃のバイオレンスドラマ。横スクロールのカメラアングルを使用したセンス溢れるアクションシーンや、ラストに向けた怒涛の伏線回収も素晴らしく、主人公である平凡なサラリーマン、オ・デス(チェ・ミンシク)を容赦なく追い込んでいく展開から目が離せない。

第57回カンヌ映画祭では、審査委員長を務めたクエンティン・タランティーノ監督の激賞を受けて審査員グランプリを受賞するなど、チャヌク監督の名を世に知らしめた傑作だ。

そして「渇き」は、韓国映画界を代表する顔となったソン・ガンホを主演に迎え、第62回カンヌ映画祭など世界の各映画祭で称えられた野心作。吸血鬼になり人妻と禁断の恋に落ちた神父が、信仰と欲望の狭間で苦悩する異色ホラーで、チャヌク監督ならではの凝った映像美にもグイグイと引き込まれてしまう。

サラ・ウォーターズによる世界的ベストセラー小説「荊の城」を映画化した官能サスペンス「お嬢さん」も、チャヌク監督らしいテンションの高い演出が光る1作。日本統治下の朝鮮半島を舞台に、令嬢や詐欺師らが入り乱れて、騙し合いや復讐を繰り広げていく。誰が騙しているのか、騙されているのか、145分の上映時間も気にならないほどチャヌク監督の仕掛ける過激な罠にハマること必至。韓国で成人指定を受けただけにエロティシズムもたっぷりで、耽美的な世界へと観る者を誘う。

先述したティーチインイベントでは、「愛というものは、大きなミステリーだと思う」とも語っていたチャヌク監督。特集される3本はバイオレンスや官能シーンなど過激な描写が注目されがちだが、いずれも"愛の不思議"に迫るドラマ性が最大の見どころ。その奥深いストーリーと共に、強烈な作家性に改めて触れてほしい。

文＝成田おり枝