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2023/07/07

振付家・ダンサー・俳優の北尾亘がダンスに懸ける思いを語る「ダンスを通して人と出会う機会をもっともっとたくさん作り続けていきたい」

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北尾亘
北尾亘

ダンスカンパニー「Baobab」主宰の北尾亘が、7月11日(火)深夜放送の「ART & CULTURE ~今を生きる表現者たち」に出演。クラシックバレエからストリートダンス、演劇やミュージカルまで幅広いジャンルの経験を持つ北尾が、コンテンポラリーダンスについて語る。

今回、振付家・ダンサー・俳優とさまざまな顔を持つ北尾に、コンテンポラリーダンスの魅力や昨今のダンスを取り巻く環境、今後の展望などについて語ってもらった。

――コンテンポラリーダンスとはどういうものですか?

「(表現形態に共通の形式を持たない自由な身体表現のダンスであるため)十人十色、それぞれの捉え方があって、それをすべて許容してくれるようなダンスジャンル。そんな懐の深い、常に変化し続けるダンスの世界だと思っています。

僕自身もミュージカルの経験があり、そしてジャズダンスからスタートして、そこからヒップホップに没頭したり、クラシックバレエを基礎で学んだりと、色々なジャンルを経験してきているので、各ジャンルのいい所取りをしながら、時代と呼応するような作品、ダンスを作り続けています。このようなことをコンテンポラリーダンスと呼ぶのかなと思っています」

――声優や俳優など多彩に活躍されていますが、現在にいたるきっかけは?

「2歳、3歳くらいの頃に、人見知りを少しでも直せたらということで両親が劇団に入れてくれました。児童劇団に所属をして、ミュージカル作品に出演する機会から、舞台芸術や文化芸術方面に活動が伸びていきましたね。(自己分析すると)僕は、『舞台の上に立ち、その都度ライブの表現、その日にお客さんが集って生きた舞台を上演する』ということに携わることが好きでしたし、それは今でも強く思っていることです」

――なぜその表現方法がダンスだったのでしょうか?

「大学に進学した際に、コンテンポラリーダンスという全く出合ったことのない未知なるジャンルのダンスに出合いまして、師匠となった先生に『あなた踊り上手ね』って褒めていただいたことがダンサーに至ったすべてのきっかけかもしれません。

個人的に"どんな人のダンスにおいても、型や技術にとらわれず、踊り手あるいは作り手が何を大事にしているかという部分に重点を置く"というところがこのジャンルの魅力だと感じていて、年齢や環境によって常に変化を続ける体からダイレクトに表現に息づいて、変化・変容していくことに強い魅力を覚えるから、自然にダンスの道、身体表現の道に進んでいるのかなと思います」

ダンスへの思いを語ってくれた北尾亘
ダンスへの思いを語ってくれた北尾亘

――「Baobab」はダンスであり演劇のようでもありますが、ダンスと演劇の違いをどのように捉えていますか?

「どちらも変化し続けているものですし、僕の思考も変化し続けているのですが、今のところ演劇というのは、歴史背景や人間の生き方や、思想、考え方など、そういったものにダイレクトに影響を及ぼし得る表現だと思っています。一方で、日本人は体で感情表現をしたり、街中でいきなり踊り出したりとか、そういうことと少し縁遠い国民性だと思うので、ダンスはちょっと非日常的、二次的なものだと感じています。だから、ダンスを用いて観客の琴線に触れることなどは少し難しいですが、演劇は観る人の発想などにダイレクトに影響を及ぼし得る表現なんじゃないかな、というふうに感じています。

僕は人の人生にタッチする、社会の何かに触れていくことをダンスでも起こせないかと、年々強く思うようになり、演劇的な要素のセリフを喋ってみたり、体の感情表現だけでなく、顔で表現したりします。踊ることは、自分の中で運動を起こして循環したときに生まれる感情を表現の上で蓋をしてしまうことが多いと思うんですね。これはジャンルの型、技術的なものや見栄えとかで制限されてしまう。これらを解き放って表現に作り変えようとしているからこそ、演劇的な要素を取り扱いたくなのるかと思います」

――初めて観る方々に最初に見てほしい作品、楽しみ方を教えていただけますか?

「できれば最新作を観ていただくことが、一番じゃないかな。時代に呼応して、時代の中で変化する体に意識を向け、社会とか人々の声と自分自身の内声を聞きながら作品作りをしているつもりなので、その都度フレッシュな表現、あるいは最新の体の声が作品に立ち上がっていると思います。もちろん、劇場に足を運んでいただけたら嬉しいですし、そうでなくとも、これまでの過去作品もウェブ上には載せているので、その遍歴も観てもらえると嬉しいです」

――これまで数々の賞を受賞されていますが、どのようなところを心がけて来られたのでしょうか?

「ヒップホップカルチャーに幼い時からどっぷり触れていた経験もあるので、ヒップホップやストリートダンスとの馴染みが一番良かったですね。この自由の幅のあるコンテンポラリーダンスのジャンルに飛び込んだ時に、周りを見渡してもあまりそういうことを取り扱っているダンサーが多くなく、気の赴くままにそういう要素を作品の中に盛り込んできました。

具体的には、音楽の選曲や音楽と体の呼応のさせ方、音取りとかリズム取りですね。クラシックバレエの成り立ちって、西洋的な上に向かっていく体の使い方、天や空を目指すような使い方が多いのに対し、ブラックカルチャーは地面を踏み鳴らし、地面に向けてのエネルギーの発散の仕方がある。そういった、地面を感じるとか、裸足で踊るという特性の部分に強い興味を持って創作に当たっていました。空間性についてもそうで、劇場空間の扱い方、複数人のグループ作品、群舞作品の場合のポジショニング、構図、その変化のさせ方とか、そういうところを意識してきました。

新しいムーブメントとか新しい構図や配置といった"まだ見たことのないものを求めてその空間を設計していく"ということにすごく重点を置いているので、わざわざアシンメトリーな形にダンサーを配置したり、観客席とは違う方向に体を向けて身体の立体感を演出したりしています。そういう意味で、(特定の場所や空間と結びつくことで成立する)サイトスペシフィックな作りとか空間作りということも心がけています」

――今後の活動の展望は?

「表現活動はずっと続けていきたいなと思っていて、『このカンパニーがそういう循環していく場所になればいいな』という願いをずっと変わらず持っています。公演の規模が変化したり、あるいは公演を上演する場所が変わったりなど、ダンスを通して僕以外の人たちと出会っていく場所というのを常に作り続けることを願って継続していこうと思っています。ダンスを通して人と出会う機会をもっともっとたくさん作り続けていきたいなというのが大きなビジョンかもしれないですね。出会った人々、波及した人々から、またいろんな人に伝播して波及されていって、気付いたらみんなが少し生きやすくなる世界になったらいいなあと願っています」

――実際に劇場に来てもらい一緒に体験して作品を作っていくという楽しみ方について教えてください。

「劇場という場所で顔を合わせて、この出会いと共にものづくりをしているということが膨らんでいくためのやり方にはどんなものがあるかなと常に考えていて、観せる側のアプローチと観る側が体験型になることを大事にしたいなと思っています。(観せる側、観る側の)双方でちゃんとやりとりが生まれ、コミュニケーションを取れているって、特に観ていただいている人に実感してもらえることが大事かなと思っているんです。つまり"お客さんと協働して劇場で作品が完成する"ということを大事にしているのですが、それにもっと付加価値をつけて実感を伴わせていきたいという思いがあり、その行く先はお客さんも踊っていただけるというのが大きな目標ですね。

それに向けてBaobabはダンスフェスティバルを主催していたりもします。そういう場では観終わった後にそのままお客さんが踊っていただけるようなコミュニケーションの場所、例えばダンスフロアを準備するとか、そういうふうな企画を立ち上げてきたことが何度もあります。そういうことが『もはや作品である』と断言できるような、ダンスライブを観に来たような感覚になってもらうようなことを目指していくのも面白いかなと思っています」

――最後にメッセージをお願い致します。

「ぜひ僕が主宰しますダンスカンパニー・Baobabの活動、個人の活動に目を向けていただけたら嬉しいです。魔訶不思議なダンスのジャンルですけれども、意外とどんな人とも寄り添える懐の深いダンスジャンルだと感じていますので、皆さんと実際に出会える機会があったら嬉しいなと思います」

文=原田健

<プロフィール>
1987年兵庫県生まれ。
幼少より舞台芸術に携わる。 2009年ダンスカンパニー[Baobab]を旗揚げ、全作品の振付・構成・演出を担う。単独公演のほか国内外のフェスティバルに参加。
振付家として [木ノ下歌舞伎・ロロ・範宙遊泳]など舞台作品のほか、NHK連続テレビ小説『半分、青い。』など映像作品へも多数振付。 ダンサー・俳優として[近藤良平、多田淳之介、杉原邦生、山本卓卓]などの作品に出演。 WS講師やアウトリーチ活動を日本全国で展開。
尚美学園大学、桜美林大学、多摩美術大学非常勤講師。
俳優4人の演劇ユニット「さんぴん」メンバーとしても活動。
横浜ダンスコレクション2018 コンペティションⅠ「ベストダンサー賞」ほか、多数受賞。
北尾亘Twitter:https://twitter.com/wataru_159
HP:https://www.gorch-brothers.jp/member/1012

放送情報

ART & CULTURE ~ 今を生きる表現者たち 振付家・ダンサー・俳優:北尾亘
放送日時:2023年7月12日(水)2:50〜
2023年7月17日(月)3:50~
2023年7月20日(木)3:50~ 他
チャンネル:スポーツライブ+ 他
※放送スケジュールは変更になる場合があります

【配信情報】
ART & CULTURE ~ 今を生きる表現者たち 振付家・ダンサー・俳優:北尾亘
配信日時:2023年7月7日(金)12:00〜12月31日(日)
https://spoox.skyperfectv.co.jp/static/sales/content/art-culture/

【公演情報】
Baobab第15回本公演Re:born project vol.7+8『ボレロ -或いは、熱狂。』
7月21日(金)〜23日(日):シアタートラム
Baobab:https://dd-baobab-bb.boo.jp/index.html

制作協力
アーツコミッション・ヨコハマ
https://acy.yafjp.org/

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