2024/02/12
若き柴田恭兵と榊原郁恵の魅力が全開のドラマ「青い絶唱」
1974年から6年間続いたTBSと大映テレビが共同制作した人気ドラマが"赤いシリーズ"だ。同シリーズの顔となったのが、当時人気絶頂だった山口百恵。後の夫となる三浦友和が恋人役の常連となり、宇津井健もシリーズのほとんどに主演していた。難病や不幸な生い立ちといった逆境に立ち向かうヒロインを健気に演じた山口百恵の活躍を象徴するシリーズでもある。百恵の引退に伴い、1980年放送の「赤い死線」をもってシリーズは終了。その人気を受けて、同年11月からTBS系でスタートしたドラマが「青い絶唱」である。ヒロインを務めたのは、百恵と同じホリプロ所属の榊原郁恵。76年のホリプロタレントスカウトキャラバンでグランプリを受賞し、「1億円のシンデレラ」のキャッチフレーズで77年にデビュー。翌年には「夏のお嬢さん」をヒットさせて人気がうなぎ上りだった。相手役には柴田恭兵が起用されたが、当時は劇団東京キッドブラザースの看板俳優として爆発的な人気を誇り、1979年の「赤い嵐」(TBS系)で連続ドラマに初主演。同作も大映テレビの制作で、派手なストーリー展開が大いに話題を呼んだばかりだった。
そんなフレッシュな2人を主演に据えた「青い絶唱」。柴田演じる無鉄砲な兄が、純情だがモテない妹の郁恵に幸せな結婚をさせるために自身も自転車レースの世界チャンピオンを目指すという青春ドラマ的要素を軸にサスペンスを絡めたストーリーだ。ある日、自転車店の息子・鈴木鉄夫(柴田恭兵)と妹・華子(榊原郁恵)は、黒木恵(渡部絵美)と沢田清貴(北詰友樹)が暴走族に絡まれているところを助ける。そのお礼に清貴の家に招待されることになり、哲夫は恵に、華子は清貴にそれぞれ一目惚れをしてしまう。ところが、沢田家は大手自転車・沢田サイクル会長の家で、会長である沢田岩雄(小沢栄太郎)こそ、鉄夫と華子の父・太一(山本学)を会社から失脚させた張本人だったのだ。清貴は岩雄の孫にあたる。それでも華子は清貴に想いを寄せ、鉄夫は妹の幸せを願うべく、2人の縁談を阻止しようとする圧力と戦う。
一方、清貴の父で社長・隆一(高橋昌也)は昔の非情な仕打ちを謝罪しようと鉄夫の母・静子(馬渕晴子)を誘い出し、人目を忍んで会う。そして2人はやがて蒸発。鉄夫と華子は自転車で母を探すが、2人が泊まっていたホテルに踏み込むと、判別がつかぬほど全身に火傷を負った隆一しかおらず、静子は行方不明に。この事件の真相を解く鍵を握るのは太一の妹・すみれ(泉ピン子)の存在だったが...。
鈴木兄妹を軸にしたドロドロした人間ドラマを軸に、謎の事件を巡るサスペンス、蒸発した母を自転車で探すロードムービー的な要素が絡む複雑なストーリーは、まさに大映テレビの真骨頂。恵を演じる渡部絵美は、フィギュアスケート選手として活躍し、80年にレークプラシッド五輪に6位入賞を果たして芸能界に転身。本作は女優としてのデビュー作であり、マドンナ役として作品に華を添えている。
ほかの共演者は藤田弓子、新克利、中島久之、結城美栄子といった昭和を彩った名脇役たちが一堂に会している。出番は多くないものの、赤木春恵らが顔を見せてくれるのも昭和ドラマのファンには嬉しいところだ。
残念ながら「青いシリーズ」は実現せず、本作のみとなってしまったものの脚本を担当した安本莞二が紡ぐストーリーは、最後までハラハラの連続で飽きさせない。安本といえば、「赤い衝撃」(1976)、「赤い激流」(1977年)、「赤い激突」(1978年)という赤いシリーズの中核作品を手掛け、大映テレビの名脚本家として知られる。特に「赤い激流」は水谷豊が主演し、シリーズの最高視聴率となる37.2%を記録し、シリーズ最高傑作とも言われている名作。本作にも出演している小沢栄太郎、馬渕晴子、中島久之、赤木春恵といった共通のキャストが多い。
知られざる名作といっていい「青い絶唱」が、TBSチャンネル2で放送される。決して再放送の機会が多い作品ではないので、貴重なオンエアでもある。若さ溢れる柴田恭兵の躍動をはじめ、笑顔がまぶしい榊原郁恵の魅力が全開。波乱の展開が連続するストーリーにもハマってほしい。
文=渡辺敏樹