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2024/05/20

無実の郵便局長とポストオフィスの闘争をドラマ化!「ミスター・ベイツvsポストオフィス」の魅力を分析「実話ベースの人間ドラマであり、上質な社会派エンターテインメント」

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英国史上最大規模の冤罪スキャンダルを描いたドラマ「ミスター・ベイツvsポストオフィス」
英国史上最大規模の冤罪スキャンダルを描いたドラマ「ミスター・ベイツvsポストオフィス」

2024年の元日に英国ITVで放送され、世論や英国政府をも巻き込む社会現象となったTVドラマ「ミスター・ベイツvsポストオフィス」が、6月2日(日)にミステリーチャンネルで独占日本初放送される(全4話一挙放送)。

「ミスター・ベイツvsポストオフィス」は英国で1,000万人以上の視聴者数を獲得し、ITVのドラマとしては「ダウントン・アビー」を超える大ヒットとなった話題作。英国史上最大規模の冤罪スキャンダルを描いた本作の放送をきっかけに、このスキャンダルそのものが再び注目を集めただけでなく、英国政府が問題の早期解決に向けて取り組むことにもつながった。

無実の郵便局長とポストオフィスとの闘いを描く
無実の郵便局長とポストオフィスとの闘いを描く

(C) ITV Studios Limited 2023

■冤罪によって善良な市民が刑務所へ、さらには自殺者までも

本作で描かれる「英国史上最大規模の冤罪スキャンダル」――それは、無実の郵便局長とポストオフィスとの闘争、とも呼べる出来事だ。2000年代、英国ポストオフィスでITシステムの欠陥を要因とする問題が発生。この問題はオープンにされることも解決されることもなく、十数年の時が流れていった。その間、イギリス各地の郵便局の会計処理において不可解な金銭の損失が生じることになったが、その責任を問われたのは700人以上もの無実の郵便局長たちだった。ある者は窃盗や詐欺などの罪に問われ、ある者は家や財産や名声を失い、さらには自殺に追い込まれてしまう郵便局長もいた。数百人もの市民が冤罪によって嫌疑をかけられた上に死者まで出した一連の出来事は、"スキャンダル"というより"事件"と呼ぶのがふさわしいのかもしれない。海外ドラマに詳しいライターの今祥枝さんは「埋もれかけていた出来事にスポットライトを当てた本作は、大きな社会的意義のある作品」と強調する。そして、冤罪に巻き込まれた人々の闘いを描くエンターテインメントとしても、本作は輝きを放っている。

アラン・ベイツを演じたトビー・ジョーンズ
アラン・ベイツを演じたトビー・ジョーンズ

(C) ITV Studios Limited 2023

■イギリスで暮らす市民の人生の機微を丁寧にすくい上げるヒューマンドラマ

ポストオフィスを巡る冤罪スキャンダルで有罪判決を受けたのは数百人規模に上るが、今さんは「ドラマでは被害を受けた8人の郵便局長に絞って描くことで、彼らの人生の歩みや生きざま、そして苦悩が浮き彫りになっている」と語る。

「8人の郵便局長たちは、年老いた母親に心配をかけたくないという思いから一人で会計上の差額を穴埋めしようとする女性や、家族を守るためにポストオフィスと闘うことを決めたのにそのせいで子どもがいじめに遭ってしまう父親、といった人々。そこに映し出されているのはイギリスで暮らす一般的な市民の姿なのだろうと感じます。ドラマを見ながら、彼らが織り成す人間ドラマに感情移入して泣けてくる場面が何度もありました」

泣けると言っても本作は過剰に感傷的な作品ではない。「監督のジェームズ・ストロング、脚本のグウィネス・ヒューズをはじめとする制作陣は、悲劇的だったり大げさだったり、という過剰な演出に頼ることはしていない。さらに、関係者だけで数百人、数千人という冤罪スキャンダルを分かりやすく整理して全4話の物語に手際よくまとめ上げているのも、制作陣の力量」と今さんは指摘する。

この物語の中心人物で、無実の郵便局長たちのリーダー的存在、アラン・ベイツを演じるのは名優トビー・ジョーンズだ。「インディ・ジョーンズと運命のダイヤル」(2023年)や「SHERLOCK シャーロック(シーズン4)」(2016年)などに出演してきたトビー・ジョーンズは、ひとクセありそうな存在感が光る個性派だが、本作では少し頑固な初老の男を、演出と同様に抑制の効いた演技で表現している。

「アラン・ベイツさんは実在の人物ですが、彼のインタビューなどから感じるのはベイツさん自身の人間性がとても魅力的だということ。これほど大きな冤罪スキャンダルと20年以上も闘っている当事者でありながら、実に謙虚で『自分の手柄だ』といったアピールをすることもない。まるで職人のように多くを語らず、時にはユーモアを忘れず、というベイツさんのキャラクターをトビー・ジョーンズが見事に演じ切っていると思います」

また、劇中にはイギリス各地の美しい風景も映し出されるが、強く印象に残るのはロンドンのような都市部の景観よりも、郊外の牧歌的な風景だ。小さいながらも温かい地元のコミュニティー、スコーンと紅茶が生活に溶け込んだ日常のひとコマ、日本の里山にも似た緑豊かな山並み、そんな景色に懐かしさのような感覚を覚えるかもしれない。

(C) ITV Studios Limited 2023

■今もなお現在進行形の上質な社会派エンターテインメント

「ミスター・ベイツvsポストオフィス」は全4話でエンディングを迎えるが、現実のイギリス社会ではポストオフィスを巡る冤罪スキャンダルは現在進行形で今もなお事態が進展中だ。

「イギリス国内でもあまり注目されていなかった一連の出来事を取り上げて世論や政府までも動かした、という本作の功績はとても大きい。実話ベースのハートウオーミングなヒューマンドラマであり、事実を丹念に掘り下げてきっちりと仕上げた上質な社会派エンターテインメントでもある。それが『ミスター・ベイツvsポストオフィス』の魅力だと思います」

取材・文=editaholic



放送情報

ミスター・ベイツvsポストオフィス
放送日時: 6月2日(日)16:00~(全4話一挙放送)
見逃し配信:6月4日(火)~6月15日(土)
放送チャンネル: ミステリーチャンネル
※放送スケジュールは変更になる場合があります



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