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2024/05/20

中村ゆり、「鬼平犯科帳」で現代との違いに苦労するも「『鬼平』が描くテーマには現代に通じる美学がある」

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「鬼平犯科帳」シリーズに密偵・おまさ役で出演する中村ゆり
「鬼平犯科帳」シリーズに密偵・おまさ役で出演する中村ゆり

松本幸四郎が主演する「鬼平犯科帳」。その劇場版「鬼平犯科帳 血闘」が5月10日(金)より全国公開され、さらに時代劇専門チャンネルにて連続シリーズ「鬼平犯科帳 でくの十蔵」が6月8日(土)に、連続シリーズ「鬼平犯科帳 血頭の丹兵衛」が7月6日(土)に独占初放送される。本シリーズに密偵・おまさ役でレギュラー出演している中村ゆりに作品への思いを語ってもらった。


――「鬼平犯科帳」という作品に対して、どのような印象を持っていましたか?

「『鬼平』といえば誰もが知っている名作ですし、歴代の名優さんたちが出演されてきたすごい作品にお声がけしていただき、プレッシャーは相当ありました。私は幼少期に『鬼平』を見ていなかったのですが、もし子供時代から鬼平ファンであったら、途方もない重圧になったのかもしれません。私の出演が発表されてから、本当に多くの方に励ましの声を頂いて、"これほど深く愛されている作品なのか"と、一層プレッシャーを感じました。撮影中も不安が大きかったのですが、監督からも言われた通り、過去のおまさをなぞっても仕方ない。自分なりに解釈をして再構築することで、私なりのおまさを表現することに徹しました。梶芽衣子さんが演じたおまさは、感情表現を抑えたミステリアスな雰囲気を持っていましたが、私が演じるなら、人間らしさを深掘りできたらいいかなと思ったんです。おまさの人生に銕三郎(※若き日の平蔵)がどれほど大きな影響を与えたのかも意識して。身分の違いを超えて温かく自分に接してくれた彼により、おまさは人としての尊厳を与えてもらったのだと思う。それを念頭に置いて、おまさがどんなときに怒りを見せるのか、などと考えながらキャラクターを構築していきました。時代的に人生の選択肢が極めて少ない中で、恵まれた環境ではなかったけれど、おまさにはプライドや美学がしっかりあり、人としての美しさを持っていると思うんです。環境に染まらない強さがあり、とても魅力的な人物だと感じていますね」

連続シリーズ「鬼平犯科帳 でくの十蔵」
連続シリーズ「鬼平犯科帳 でくの十蔵」

「鬼平犯科帳 でくの十蔵」(C)日本映画放送

――主演の松本幸四郎さんや共演者の方に対する印象はいかがでしたか?

「幸四郎さんは、普段はすごくふわふわと柔らかい方なんです。壁をまったく感じさせないのですが、それが座長としての幸四郎さんの在り方なのかなと気付きました。現場がリラックスできるような雰囲気をつくるために、あえてそうしているんだと。シリアスな場面が多い作品ですが、それ以外は常にほんわかした雰囲気でしたね。ただ、クランクアップの時に幸四郎さんが泣いていたのを見て、きっと私などとは比較にならないものすごい重圧の中で演じられていたということに気付きました。叔父さまが演じた役だから思い入れも相当なものだったはず。それほどの強い思いをもって『鬼平』に挑んで、たくさんの思い出がよみがえっての涙なんだなと思うと...。そんな内側に秘めた熱いものが、幸四郎さんの魅力なのかなと強く感じました。

ほかの出演者では、志田未来さんとの共演が楽しみでした。彼女とは何度も共演しているのですが、劇場版「鬼平犯科帳 血闘」のおりん役は陰のある女というか、今まで見たことのない役どころを演じていました。彼女のイメージとまったく違う役なのに、すごくすてきで、本当に多才な俳優さんなんだなと思いました。おまさにとっても、おりんの存在は大きかったはずなので、おりん役が未来ちゃんでよかったです。相模の彦十役の火野正平さんとも一緒の場面が多かったのですが、火野さん独特の軽やかさを間近に見ることができて、時代劇の領域でもこんなお芝居ができるなんてすごいなと感じました」


――撮影中に苦労したことなどはありましたか?

「やはり時代劇には現代の日常生活とは異なる動きが不可欠です。本格的な時代劇は今回が初めてで、姿勢や歩き方、お茶の飲み方に至るまで所作の決まり事がたくさんあり、それをまず自分の中に落とし込むのが大変でした。でも型だけでは表現したくない。所作の中にもその人の"生活"があるべきだと感じて、所作の先生と相談しながら生活感をきちんと出すことにこだわりました。ただ、気持ちだけでは表現できない不自由さはどうしてもあるので、そんなときは難しさを感じました。江戸時代のしゃべり方の正解だって分からないですから。自分にフィットしたセリフ回しの安心感がない。役が自分にマッチして自由に動けている感覚がないまま演じているので、気持ちで表現できているかという不安を抱えていました。それでも撮影所の皆さんが本当にいろいろ助言してくださるので、職人さんたちの教えを聞きながら演じていました。京都のスタッフの方々は、髪の毛一本の表現にもこだわり、本当に丁寧に抜かりなく仕事をしてくださるので、感銘を受けることも多かったです。

最初に台本を読んだ時は、おまさの行動が現代を生きる私には想像し難いことも多かったです。江戸時代は身分の格差が大きい社会だったはずなので、そこを理解することでおまさの行動が感情と共にひもづいてくる気がしました。やはり、普段の台本を読む時とは違う難しさがあって。恥ずかしながら私は歴史に全然詳しくないんですよ(笑)。でも、『鬼平犯科帳』が描いているテーマには、現代に通じる美学があることも理解できました。誰かのために命懸けで何かをする強さとはかなさを描いていると思うんです。おまさにとって、盗賊の世界にいながらも、平蔵がずっと生きていく指針になっていたのだと。20年たっても変わらずにいてくれた平蔵への憧れも相当なものがあったでしょう。でも、おまさが平蔵に抱く秘めた恋心は、どうあがいてもかなわないんです...。それでも、その人のために命を懸ける強さ。それは並大抵のことではないので、彼女のそんな思いを大事にしながら、お芝居をしました。自信はないし、不安でプレッシャーもすごい中で、現場ではとにかく一生懸命やったという思いはあります。ちゃんと苦悩してよかったなと感じます」

――最後に、見どころを教えてください。

「『血闘』では、おまさが密偵になる過程が描かれますが、平蔵の役に立ちたいという答えが密偵だったのだと思うと、それはおまさ自身のためだったのかなとも思いました。内緒ですけど、ラストにすごく好きないい場面があるので、ぜひ最後まで見てほしいですね。時代劇に参加してみて、思っていたほど敷居は高くないと感じました。人が人としての営みをしていること自体は、現代でも変わらないと思う。時代劇を見て、当時の人の生きざまから現代に生きる私たちが学べることがたくさんあるので、若い世代の人たちにも楽しんでほしいと思います」


撮影=大川晋児 取材・文=渡辺敏樹
ヘアメーク=藤田響子 スタイリスト=小川未久



放送情報

連続シリーズ「鬼平犯科帳 でくの十蔵」
放送日時: 6月8日(土)19:00~ほか<TV初>
連続シリーズ「鬼平犯科帳 血頭の丹兵衛」
放送日時: 7月6日(土)19:00~<TV初>
放送チャンネル: 時代劇専門チャンネル
※放送スケジュールは変更になる場合があります



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