2024/09/11
真木よう子はじめ、井浦新ら豪華キャストが繊細に紡ぎ出す人間ドラマ「アンダーカレント」
漫画界のカンヌ映画祭と呼ばれるアングレーム国際漫画祭のオフィシャルセレクションに選出されるなど国内外から熱狂的な支持を得ている豊田徹也の同名漫画を、「愛はなんだ」(2019年)の今泉力哉監督の手で実写化した「アンダーカレント」(2023年)。真木よう子をはじめ、井浦新、リリー・フランキー、永山瑛太、江口のりこといった豪華キャストが集結し、誰にも言えない大切な嘘を抱えている人々の気持ちを丁寧に紡いでいる。
家業の銭湯を継いだかなえ(真木)は、夫・悟(永山)が突然失踪し途方に暮れていた。なんとか銭湯を再開することにしたかなえの前に堀と名乗る男が「働きたい」とやってきたことで、2人の不思議な共同生活が始まる。一方、友人の菅野(江口)に紹介された探偵・山﨑(リリー)と悟の行方を捜すことになったかなえは、夫の知られざる事実を次々と知ることになる...。
夫の行方や突然現われた堀の目的が分からないため、一見ミステリーにも思える作りになっているが、実はそれぞれが胸の奥に隠していた過去に対する"嘘"が紐解かれていく人間ドラマ。山﨑がかなえに語りかける「人をわかるってどういうことですか?」が全編を通じてのテーマになっていく。
知らず知らずのうちに記憶の奥底に秘密を隠していたかなえを演じたのは真木よう子。夫がいなくなった喪失感を常に抱えているため気がつけば魂が抜けたような感情のない顔をしているかなえを、抑えた演技で見事に体現。第35回モスクワ国際映画祭で審査員特別賞を受賞した主演映画「さよなら渓谷」(2013年)でも見せた、どこか危うさが漂う演技を披露している。
「しばしば役に入り込むあまり、撮影期間中はかなり辛かった事を覚えています」「かなえちゃんにはトラウマがあって。それを私は忘れられずに、ずっと演じていました。思い出すと切ないです」と舞台挨拶で語っていた真木。そんな彼女の演技は、かなえが憑依しているとしか思えないほどのリアルさがあった。
真木の演技を引き立てているのは豪華共演陣。井浦新はミステリアスで心情が全く見えてこない謎多き男・堀を淡々と静かに演じながら、堀が持つ温かさや安心感を佇まいや仕草で表現。また、夫・悟を演じた永山瑛太は、かなえの回想と作品中盤で登場する"今"とのギャップを見せ、人間の奥深さを伝えてくる。かなえに寄り添う友人・菅野を演じた江口のりこと探偵・山﨑を演じたリリー・フランキーは、重くなりがちの作品を彼ららしい飄々とした演技で軽やかな空気に。あまり表情が変わらないかなえも、2人の前では自然と顔がほころんでしまうスパイス的な存在として登場している。
真木を含め多くを語らないキャラクターを演じる彼らは、小さな表情や声のトーンの変化を見せて、心の動きを表現していく。その繊細な演技合戦を本作で楽しみたい。
文=玉置晴子