トム・ホランド主演のMCU版「スパイダーマン」3部作は若く未熟なティーンエイジヒーローの成長を描く

赤と青のスーツをまとい、クモの糸を駆使してアクロバティックに街の平和を守るヒーロー、スパイダーマン。アメコミのキャラクターとして抜群の人気を誇り、幾度となくメディアで映像化されてきた。トム・ホランドが主演するマーベル・シネマティック・ユニバース(MCU)版は映画版の中でもっとも新しいシリーズで、「スパイダーマン：ホームカミング」(2017年)、「−ファー・フロム・ホーム」(2019年)、「−ノー・ウェイ・ホーム」(2021年)の３作があり、ザ・シネマで10月12日(土)に一挙放送される。

MCU版以前には、トビー・マグワイア主演、サム・ライミ監督のオリジナル３部作、アンドリュー・ガーフィルド主演、マーク・ウェブ監督のアメイジング２部作があり、アメイジング版は設定と展開を刷新した昨今でいうところのリブート版である。いずれも登場するヒーローはスパイダーマンのみ。MCU版は、アイアンマンやキャプテン・アメリカ、ソーといったマーベルヒーローたちが世界観を共有し集結する『アベンジャーズ』が登場するのが大きな特徴だ。

すでにヒーローが存在する世界に若手ヒーローとしてスパイダーマンが登場し、あこがれの先輩ヒーローを見てピーターが成長していく本シリーズは、これまでなかった手法でスパイダーマンというヒーローを個性的かつ魅力的に描いている。また、サム・ライミ監督のオリジナル３部作はストーリーがシリアスで、MCU版に比べると世界観がクールでもある。

■先輩ヒーローを見てピーターの成長が描かれるMCU版シリーズ第1作「スパイダーマン：ホームカミング」

MCU版のスパイダーマンは「シビル・ウォー／キャプテン・アメリカ」(2016年)で初登場。15歳の高校生であるピーター・パーカーは、アベンジャーズと比べると当初から少年っぽさが際立っていた。初のタイトル映画「スパイダーマン：ホームカミング」(2017年)では、ピーター(トム・ホランド)が先の戦いに自分をスカウトしてくれたアイアンマンことトニー・スターク(ロバート・ダウニー・Jr)からハイテク・スーツをプレゼントされる。ピーターはもともと自分の力を困っている人のために使っていたが、トニーに認められたい一心からさらに活動に励んでいた。そんなある日、強盗団が使用していた武器を追ったところ、かつてトニーの会社「スターク・インダストリーズ」に仕事を奪われ、トニーを憎む男が怪人バルチャーとなったことが判明し、ピーターは果敢に挑むが苦戦する。トニーとの師弟競演が光る一作だ。

■師匠のトニー・スタークを失ったピーターが新たな戦いに挑む「スパイダーマン：ファー・フロム・ホーム」

第二作の「スパイダーマン：ファー・フロム・ホーム」(2019年)は、「アベンジャーズ／エンド・ゲーム」に続く物語で、トニー・スタークが亡くなった後の世界が舞台。師匠のトニーを失ったピーターは、ショックから立ち直れずにいた。そんな中、ピーターは夏休みの科学史ツアーに参加し、同級生のネッド(ジェイコブ・バタロン)や片思い中のMJ(ゼンデイヤ)と共にヨーロッパへ。ヴェネツィアで水を操る怪物に出会って応戦していると、マント姿のヒーロー、ミステリオが現れて撃退してくれる。新たなヒーローに心躍らせていたが、ミステリオの正体が少しずつ明らかになり、ピーターは窮地に立たされる。

■マルチバースが開き、歴代のヴィランがピーターを襲う「スパイダーマン：ノー・ウェイ・ホーム」

第三作の「スパイダーマン：ノー・ウェイ・ホーム」(2021年)は、ジョン・ワッツ監督版＝通称ホーム版の最終章だ。ストーリーは「−ファー・フロム・ホーム」から直結しており、ミステリオがスパイダーマンは悪人で、その正体はピーターであると世界中に拡散したことからピーターや周囲の人々の生活が激変。世間はピーターを応援する者と、ミステリオのうそを信じる者で二分し、学校や自宅にマスコミや野次馬が押し寄せる。さらに恋人のMJや友人のネッドまでも、スパイダーマンと友達という理由で進学希望先から拒否されてしまう。自分のこと以上に恋人や友人への仕打ちに心を痛めたピーターは、世界中から自分の記憶を消してもらおうと、ドクター・ストレンジ(ベネディクト・カンバーバッチ)を訪ねる。

そうして、ピーターに同情したストレンジは魔術で記憶を消してやることにするが、その際中にピーターがいろいろ注文をつけたことから失敗してしまう。その結果、マルチバースとの扉がつながり、ほかの「スパイダーマン」作品に登場した歴代ヴィランが次々とピーターに襲いかかって来る。しかも、やってきたのはヴィランだけではなかった。「−ノー・ウェイ・ホーム」はスパイダーマンにとって、ヒーローが大集結した「アベンジャーズ／エンドゲーム」のような存在になっているのだ。制作会社の枠を超えて、ピーターがかつてのスパイダーマンと共演するさまは、サム・ライミ版やマーク・ウェブ版のファンにとってもたまらない瞬間となるだろう。

文＝及川静