アカデミー賞直前！「エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス」「シェイプ・オブ・ウォーター」ほか、過去の受賞作品をチェック

年に一度の映画の祭典、第97回(2025年)アカデミー賞がいよいよ3月2日(日)(日本時間3月3日(月))に開催される。今年は本命とも呼ばれる『ANORA アノーラ』をはじめ、12部門と最多ノミネートの『エミリア・ペレス』、前哨戦を勝ち抜いた『ブルータリスト』や『エミリア・ペレス』など注目作がひしめいている。大本命『オッペンハイマー』が独走した昨年とは違った競り合いに、胸を高鳴らせている人も多いだろう。そんな気分を盛り上げるため、スカパー！ではアカデミー賞を受賞した作品を各映画専門チャンネルで放送。過去の受賞作から、あらためて今年の行方を予測してみるのも楽しいだろう。

■リアルなテーマでアカデミー賞を席巻したSFコメディ「エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス」

「エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス」は、2023年の第95回アカデミー賞で最多の11ノミネートを果たし、作品、監督、主演女優、助演男優、助演女優、脚本、編集の7部門で受賞したA24の大ヒットコメディ。コインランドリーの経営や家族との問題を抱えるエヴリン(ミシェル・ヨー)は、マルチバースから現れた"別の宇宙の夫"に誘われ全宇宙の危機を救うヒーローとして覚醒する。監督・脚本は米国人とアジア系米国人のコンビ"ダニエルズ"で、移民やLGBT、人生における選択など身近なテーマをエンタメとしてまとめた手腕が光る。シリアスからスラップスティックまでこなしアジア人初の主演女優賞に輝いたミシェル・ヨーの熱演や、半ば引退状態だった『グーニーズ』(1985年)のキー・ホイ・クァンの滋味あふれる存在感、アクションや多元宇宙をジャンプしまくるグラフィカルな映像も見どころだ。

■不寛容な時代に繰り広げられる美女と野獣の物語「シェイプ・オブ・ウォーター」

「シェイプ・オブ・ウォーター」は、2018年の第90回アカデミー賞で最多となる13部門にノミネートされ、作品、監督、美術、音楽の4部門に輝いたギレルモ・デル・トロ10本目の監督作。米ソが対立する冷戦下、政府の秘密研究所で清掃員をしていたイライザは、実験体として運び込まれた不思議な水棲生物に引かれていく。異形な者たちへの憧憬を描き続けてきたデル・トロ版「美女と野獣」の物語。世界的に不寛容な風潮が強まる中で、種を超えて紡がれる純愛が人々の心を揺さぶった。デル・トロ監督の授賞式で高揚しながら発した第一声「私は移民です」も大きな話題に。デル・トロらしい濃厚でスリル満点な演出のほか、美しいウロコに覆われた半魚人や凝ったセットのデザインや美しいカメラワーク、愛らしくミステリアスなテーマ曲も魅力的な作品だ。

■苦難を乗り越え英国王になった真実のドラマ「英国王のスピーチ」

「英国王のスピーチ」は、2011年の第83回アカデミー賞で最多の12部門にノミネートされ、作品、主演男優、監督、脚本の4部門に輝いた英国王ジョージ６世の実話の映画化だ。第2次世界大戦前夜、英国王の次男アルバート王子は、兄の王位返上によって王位を継承することになった。そこで吃音を抱えるアルバートは、スピーチ矯正の専門家と猛特訓を開始する。激動する時代の中で、新たなリーダーとなるべき者が苦難を乗り越えていく物語。王族の一員としての信念や誇りを胸に、国民に愛される王になろうと努力を重ねる姿が胸を打つ。主演を務めたコリン・ファースの威厳と人間味あふれる演技は感動的。監督、共同脚本のトム・フーパーはアルバートと矯正家の絆を軸に、重めの題材をリズミカルに展開した。巧みな話術で国民を扇動するヒトラーとの対比も面白い。

■視覚と聴覚に訴える映画らしい作品「ゼロ・グラビティ」

「ゼロ・グラビティ」は、2014年の第86回アカデミー賞で最多10部門にノミネートされ、監督、作曲、視覚効果、編集、録音、音響編集、撮影の7部門で輝いたSFサスペンス。スペースシャトルと宇宙デブリによる事故で、ストーン博士は宇宙に投げ出されてしまう。宇宙からの脱出を描いた本作は、宇宙でどうやって生きのびるかの一点に絞った物語。中盤からはサンドラ・ブロック演じるストーン博士のひとり舞台で、彼女の主観映像をはさみながら危険で孤独な宇宙を体感させる作りになっている。アルフォンソ・キュアロンはラストまで一気に引っ張る緊張感あふれる演出で、アカデミー賞監督賞を受賞した最初のラテンアメリカ系監督となった。ワイヤーによる吊りと視覚効果で無重力をリアル再現した撮影や視覚効果は臨場感満点。効果的に挿入される音楽や音響効果も孤独なドラマを盛り上げた。生への強い渇望を壮大な映像と音で描きあげた、シンプルだが力強い作品だ。

文＝神武団四郎