メインコンテンツに移動

役所広司がナチュラルな存在感でカンヌ映画祭男優賞に輝き、名匠ヴィム・ヴェンダースの日本好きも生かされた珠玉の名作「PERFECT DAYS」

2025/03/20

この記事を共有する

「PERFECT DAYS」
「PERFECT DAYS」

名匠ヴィム・ヴェンダース監督が役所広司を主演に迎えた『PERFECT DAYS』。東京の片隅で静かに生きる男の日々を描いた本作は、第76回カンヌ国際映画祭で最優秀男優賞を受賞。第96回アカデミー賞国際長編映画賞にノミネートされたほか、多くの映画賞に輝いた。そんな珠玉の作品が4月6日(日)に日本映画専門チャンネルで放送される。世界を魅了した本作の魅力を振り返ってみたい。

下町の古びたアパートで独り暮らしをしている平山(役所広司)は、トイレの清掃員として毎朝同じ時間に仕事に出かけ、夕方に帰宅する判で押したような日々を送っていた。そんな中、ふと訪れる人々との出会いやふれあいが、平穏な日常に豊かさをもたらしていく――。

平山が担当しているのは東京・渋谷にある公衆トイレ。清掃用具を積んだ車でさまざまなトイレを巡回し、作業をする姿が延々と描かれる。まるでドキュメンタリーを見ているようだ。登場するトイレは外観から個室内まで超がつくほど個性的で、そのため作業の仕方もさまざま。サラリーマンや幼い少年、女子高校生、外国人など利用者とのニアミスや、時には利用者が誰とはなしに残した"メッセージ"に平山が返事をかき残す姿も挿入され、次はどんなトイレで何が待っているのだろうかと、だんだん楽しくなってくる。

平山は穏やかだがめったに口をきかない無口な男。趣味は木漏れ日をフィルムに収めること、読書、そして70~80年代の音楽。部屋で小さな鉢植えの植物を育てている。質素な暮らしや無の境地に入ったように黙々と仕事をする姿は修行僧のようにも見えるが、実はワケあり。平山のもとを訪れる姪のやりとりの中で「こんどはこんど、いまはいま」という台詞が言葉遊びのように使われているが、平山にとって「むかしはむかし、いまはいま」なのだろう。

「PERFECT DAYS」
「PERFECT DAYS」

出ずっぱりで演じた役所広司は、些細な表情やふとした仕草の中に喜びや戸惑い、憤りなどさまざまな感情をにじませ、実は複雑な内面を持つ平山を好演。見入ってしまうほどナチュラルな存在感は、カンヌ国際映画祭のほか第47回日本アカデミー賞など数々の映画賞で最優秀男優賞に輝いたのもうなずける。

『パリ、テキサス』(1984年)『ベルリン・天使の詩』(1987年)など、日本でも人気の名作を数多く手がけたヴェンダースは、かつて小津安二郎をたどるドキュメンタリー『東京画』(1985年)を撮ったほどの日本好き。本作では端正な画角や詩情豊かな色彩を操りながら東京の街を切り取っている。ロケーションはおもに平山が暮らす浅草周辺と公衆トイレのある渋谷周りだが、古いものと新しいものが調和した景観にあらためてこの街の魅力に気づかされた。平山と姪が車や自転車で移動しながら距離を縮めていくシーケンスがロードムービー仕立てになっているのも、ヴェンダース作品らしい。

そんな本作でもひとつ注目したいのがユニークな公衆トイレの数々だ。本作は国内外16人のクリエーターが自由な発想で公衆トイレをデザインした渋谷区のプロジェクト"THE TOKYO TOILET"との一環で製作された。劇中で使われたのはすべて区内の公衆トイレで、役所広司の仕事着も実際の清掃員のユニホームである。見た目も使い心地も楽しげな"もうひとつの主役たち"も本作の見どころなのだ。

役所広司のほか、柄本時生やアオイヤマダ、麻生祐未、石川さゆり、三浦友和、田中泯、甲本雅裕、安藤玉恵ほか個性派俳優たちが出演し、平山とのふれあう姿が映画に温もりや彩りを添えている。春から初夏に向かうこれからの季節によく似合う、心地よい作品である。

文=神武団四郎



放送情報

PERFECT DAYS
放送日時: 4月6日(日)21:00~
チャンネル: 日本映画専門チャンネル
※放送スケジュールは変更になる場合があります



関連記事

more