眞栄田郷敦が美術に情熱傾ける高校生そのものに!映画「ブルーピリオド」で本領発揮

映画「ブルーピリオド」は山口つばさの同名漫画を実写映画化した作品。高校生が美術の世界へ挑み、東京藝術大学を目指すというストーリーだ。
美術の世界を描く、前代未聞の漫画作品は「マンガ大賞2020」を受賞している。しかし、原作が素晴らしくても、実写化作品が傑作になるとは限らない。だが、映画「ブルーピリオド」からは文字と画から放たれていた熱を確かに感じることができる。
満たされない気持ちを抱えて生きてきた高校生・矢口八虎はある日、美術の授業で出された課題をきっかけに、絵を描くことに興味を持つようになる。特になにかに熱を傾けることもなかった、からっぽの高校生が情熱だけを武器に、努力で困難へと立ち向かっていく。

(C)山口つばさ/講談社 (C)2024 映画「ブルーピリオド」製作委員会
八虎は成績優秀で人望も厚く、空気を読むことにも長けている。だが、美術に関しては全くの素人。そこから、国内最難関である東京藝術大学に受かるまでのサクセスストーリーとなっているのだから、フィクション感を強く感じてしまってもおかしくない。
ただ、115分間の上映時間を通して八虎が決して天才ではなく、努力で乗り越えてきたのだとしっかりとわかるから感情移入ができる。美術の世界は特殊で、見る人全員が理解できるものではないが、彼の努力の凄まじさはきっと誰もが共感するだろう。死にものぐるいで戦ってきた彼を目撃しているからこそ、最後には心から祝福することができるのだ。
その八虎も眞栄田郷敦だからこそ成立したキャラクターといえるのではないか。「東京リベンジャーズ」シリーズ(2021、2023)や「ゴールデンカムイ」(2024)など話題作への出演が続いている彼の最大の持ち味は、その役そのものになってしまうような"落とし込み力"なのではないかと思う。「役に憑依する」という表現はしばしば使われるが、彼の場合は眞栄田郷敦という人間がその役そのものになっていると錯覚してしまうのだ。
八虎に関しては、序盤では友人たちと徹夜して遊びながらどこか物足りなさを感じている。笑ってはいても、顔面からその空虚さが伝わってくるようで、主人公がこれから変わる前の楔をしっかりと打ち込むことに成功している。
そこから徐々に美術の世界へ傾倒していく八虎。画を楽しんでいることも、壁に当たって苦労していることも、光明を見つけて明るくなるところもすべてその顔面から読み解くことができる。
原作漫画でもそうなのだが、八虎は喜怒哀楽が激しいタイプではないし、明らかな主人公というより、どこにでもいそうな高校生だ。だからこそ、美術に情熱を傾けてどんどんと顔つきが変わっていく姿が印象的に映る。

(C)山口つばさ/講談社 (C)2024 映画「ブルーピリオド」製作委員会
八虎を取り巻く周囲の人間の温かさも胸を打つのだが、その中で異質の存在感を放っているのが鮎川龍二だ。通称ユカちゃんでもある彼は八虎が美術部に入るきっかけを作った同級生で、女性的な格好を好むというキャラクター。八虎とは相容れなそうに見えて不思議な距離感を保ちながら、重要なヒントを与えてくれる人間となっている。
彼を演じたのは高橋文哉なのだが、単純にビジュアルが凄まじい。ほとんど女性にしか見えないというのは漫画だからなせるものと考えていたが、高橋は実写でそれを実現させてしまった。見た目はこんなにかわいらしいのに、声は男らしく、八虎とも深いところで語り合うユカちゃんは高橋文哉だから成り立ったと言えるのではないだろうか。
作品、キャラクター、役者陣それぞれから熱を感じ取ることができる映画「ブルーピリオド」。美術の世界はわからなくとも、実際に芸大受験を経験している眞栄田郷敦が演技を通してその熱をあなたにも分けてくれるはずだ。
文=まっつ
放送情報【スカパー!】
ブルーピリオド
放送日時: 2025年5月17日(土) 20:00~
チャンネル: WOWOWシネマ
(C)山口つばさ/講談社 (C)2024 映画「ブルーピリオド」製作委員会
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