安藤サクラがオーディションで射止めブレイクのきっかけとなった作品「百円の恋」

安藤サクラといえば、いまや映画好きの中ではその名を知らぬ者の方が少ないくらいだろう。「万引き家族」で好演したことは記憶に新しく、「ゴジラ-1.0」にも出演するなど何かと賞を取る作品で存在感を放っている。そんな安藤が日本アカデミー賞最優秀主演女優賞を受賞した「百円の恋」を紹介しよう。

(C)2014東映ビデオ
本作は2014年に公開された映画で主人公の斎藤一子を安藤が務めた。一子は実家で引きこもりの生活を送っていた自堕落なアラサーであったが、ある日喧嘩になってしまい半ば投げやりに一人暮らしをはじめる。そんな折、近所の百円ショップにて働きはじめるが同僚は皆問題を抱えた人間ばかりだった。そこに毎回バナナを買いに現れる男・狩野に一子は興味を持つ。彼はボクサーとしてストイックな毎日を送る男であった。紆余曲折あり彼とデートを出来た一子であったが、同時にそのプライドも折られる。そんな彼女はボクシングを通して逆襲に燃えるのであった。
■安藤サクラのリアリティを揺らす演技

(C)2014東映ビデオ
ボクシングの話というのは映画ではベタな内容だ。特に邦画では1年に1本はボクシング関連で話題になる映画が出てくるように思う。最近では「ある男」はまさしくそうだ (この作品にも安藤は出演している)。何故かと考えてみると、ボクシングというスポーツがわかりやすい勝ち負けとリングにあがるための膨大なプロセスを必要とするからだと私は思う。それはつまり演じる側にも膨大な負荷がかかるということだ。
そんな難しい役を安藤はオーディションで射止めた。しかし、それが必然であったかのように彼女の芝居は圧巻だった。
一子は序盤とにかくダメ人間。目に光はなく自堕落な毎日を送っている。普通の役者はそこまで振り切れない。上記のような一子の状況を理解してもカメラの前で体現は難しい。けれど安藤はまるで恥などないかのように堂々と「だらけて」くれるため、こちらも安心して没入できる。加えて前半の怠けがうまいからこそ、後半のボクシングに打ち込む姿に魅せられる。特に眼光の違いは必見だ。先を見ているか見ていないか?今を必死に生きているか?その差がスクリーン上の約2時間でみてとれる。撮影は元来、映画の時系列通りには行われない。その中で眼光の差異を演じ切った安藤のスイッチ切り替えには恐れ入る。
また、タイトルの通り「恋」も赤裸々だ。32歳の遅い恋愛模様も安藤は体感させてくれる。痛々しい姿や泣き崩れる姿は観客の悲しい気持ちのトリガーというよりは圧倒されるといったほうが正しいように感じるほどで一子という人間は存在したのだということを叫んでいるようでもあった。
安藤サクラの演技力は一朝一夕で出来たものではない。けれど、確実に光る才能があったことも事実で本作はそれをとても感じられると思う。是非ともご覧あれ。
文=田中諒
放送情報【スカパー!】
百円の恋
放送日時:2025年5月19日(月)01:15~
放送チャンネル:WOWOWプライム
※放送スケジュールは変更になる場合があります
こちら