キム・ジョンヒョンの本気と魂が伝わる...「愛の不時着」「哲仁王后」の再ブレイクを経て挑んだ「凄み」を感じさせる刑事役

5月に新たな事務所への移籍を発表し、35歳を迎えた今ますますの活躍が期待されるキム・ジョンヒョン。再ブレイクのきっかけとなった「愛の不時着」(2019年)以降、「哲仁王后(チョルインワンフ)～俺がクイーン！？～」(2020年)の朝鮮第25代王・哲宗役や、「タリミファミリー(原題)」(2024年)の財閥御曹司・ガンジュ役などで見せたコミカルな役柄が強く印象に残っている人も多いだろう。

そんな愛すべきキャラクターを嬉々として演じる一方で、ガラリと雰囲気の異なるシリアスな刑事役を務めたのが主演映画「秘密～許せない真実～」(2023年)だ。第2回横浜国際映画祭のオープニング作品として上映され好評を博した本作は、現在起きている連続殺人と10年前に自殺した青年を取り巻く深い闇が交錯し、やがて、主人公が封印していた自らの過去に辿り着く...という本格サスペンスだ。

ある日、謎の紙切れが口の中に詰め込まれた惨殺死体が公衆トイレで発見される。ジョンヒョン演じる刑事ドングンが捜査を進めると、その紙切れは、被害者が10年前の兵役で刑務所に服務していた時、執拗なイジメから自殺へと追い込んだ後輩・ヨンフンの日記の一部であることが判明。やがて、自ら命を断ったヨンフンの母親に聴取するうち、彼が自分のかつての同級生であることに気付くのだが...。

壮絶なイジメや自殺などの重厚なテーマが韓国映画ならではの骨太なストーリーで展開される中、引き込まれるのはジョンヒョンの"新たな姿"だ。ヒゲを生やし、髪はボサボサ、体重も増やして挑んだエース刑事の役が違和感なくハマっていて、これまでのイメージを覆すようなビジュアルに驚かされる。

緊迫感のある芝居もさすがの演技力でこなし、ドングンが苦悩や葛藤を抱えるシーンでは影のある眼差しや声のトーンといった細部まで丁寧に表現。随所で凄みも感じさせる迫真の演技で、社会の闇に切り込んだサスペンスの世界観に説得力を持たせている。

目を覆いたくなるような残酷で凄惨な描写も多いが、だからこそ人々の心を揺さぶる様々な社会問題への重いメッセージが本作には潜んでいる。それを背負い、真摯な役作りで完璧にキャラクターを演じ切ったジョンヒョンの本気と魂が伝わる良作だ。

文＝川倉由起子