「しあわせな結婚」への期待も高まる阿部サダヲ＆松たか子、その好相性ぶりを引き出した坂元裕二脚本の会話劇「スイッチ」

7月17日より放送が始まる、テレビ朝日系木曜ドラマ「しあわせな結婚」。NHK大河ドラマ「光る君へ」(2024年)の好評ぶりも記憶に新しい大石静が脚本を手掛け、連続テレビ小説「あんぱん」での"ヤムおんちゃん"役が支持を集めた阿部サダヲが主演を務める、今クールの中でも非常に期待値の高いドラマだ。

しかも阿部と夫婦役を演じているのが、松たか子とあっては、その期待も高まるばかり。これまでにも、映画「夢売るふたり」(2012年)や「ジヌよさらば〜かむろば村へ〜」(2015年)など、数々の共演を果たしてきた2人だけに、息の合った掛け合いは必見だが、その中でも特に反響を呼んだ"共演作品"が、2020年のドラマスペシャル「スイッチ」だ。

「東京ドラマアワード2020」単発ドラマ部門で優秀賞を受賞した、膨大なセリフの掛け合いが見どころの「スイッチ」。脚本を手掛けるのは、当代きってのヒットメーカーであり、これが初のテレ朝ドラマ脚本となった坂元裕二だ。

近年では、「怪物」(2023年)や「ファーストキス 1ST KISS」(2025年)、「片思い世界」(2025年)など映画脚本の印象も強い彼だが、元々の軸足はテレビドラマにある。松たか子とは、冬の軽井沢で共同生活を送る4人の男女を描いた「カルテット」(2017年)や、"バツ3"のヒロインと3人の元夫たちの複雑な関係性を描いた「大豆田とわ子と三人の元夫」(2021年)などでタッグを組み、人生の機微を繊細に描く世界観で多くの視聴者の心を掴んできた。

阿部サダヲとも、広瀬すずが薄幸なヒロインを演じた「anone」(2018年)や、リモートドラマの新たな可能性に挑戦した「Living」(2020年)といった話題作を世に送り出している。坂元脚本ならではの、どこか不器用で人間味のあるキャラクターを、阿部はその圧倒的な演技力で見事に表現してきた。

そんな松＆阿部と深い関係性のある坂元が描き出す「スイッチ」は、別れた後も腐れ縁を続ける元恋人同士の2人が、ある事件を巡って対峙するリーガルサスペンス×ラブストーリー。

松は敏腕弁護士の蔦谷円(つたやまどか)、阿部は検察官の駒月直(こまづきなお)を演じる。物語の軸となるのは、過去に関係のあった直と円が"元恋人"ならではのテンポ良い会話劇を繰り広げつつ、現在の恋愛や互いへの複雑な感情と向き合っていく姿だ。

坂元脚本の真骨頂とも言える、些細な日常会話から人間の本質や心の奥底の感情をあぶり出す筆致は本作でも健在。お互いを知り尽くすがゆえの遠慮のなさ、時にチクリと相手の核心を突くような言葉の応酬を、松と阿部が絶妙なコンビネーションで臨場感あふれる会話劇に仕立て上げている。

円と直という"不器用で愛すべき40代の元恋人たち"が、独特のユーモアと人間臭さを込めて描かれる本作。「あるある！」と言いたくなるリアルな描写や何げなくもウィットに富んだ会話に引き込まれずにはいられない。大人の視聴者には特に心に刺さる、まさに傑作と言えるだろう。

文＝川倉由起子