松田優作の強烈な存在感にノックアウト!山口百恵、宇津井健が親子役を演じた赤いシリーズ第一作「赤い迷路」の魅力

大映テレビ制作のTBS系ドラマ"赤いシリーズ"をご存じだろうか。当時のトップアイドルだった山口百恵が主演し、多数のヒット作が生まれたが、その第1弾となったのが、1974年放送の「赤い迷路」である。
本作は大映テレビの顔ともいうべき、宇津井健が主演し、百恵が娘役を務めた。妻を殺された精神科医が犯人を突き止めるサスペンスを軸にしながら、ドロドロした人間関係に翻弄される登場人物たちの運命をダイナミックに描いた作品だ。さらに松田優作のTBS初出演作で、凄まじい演技を披露している。当時の優作は、「太陽にほえろ!」のジーパン刑事役でブレイクしたばかり。主役ではないものの、重要な登場人物である都築潤役を演じるが、圧倒的な存在感を発揮している。

東和大学精神科の教授・結城正人(宇津井健)は、国際的にも評価される名医で、大学に新設された犯罪心理学研究所の所長に迎えられる。ある日帰りの遅い娘・明子(山口百恵)を迎えに行き、桜井由紀子(長山藍子)に出会う。結城と由紀子は、明子の出生の秘密を共有していたが、結城は由紀子に秘密を守るための約束が果たせていないと責めた。
しかし、その約束が原因で由紀子が精神的な病を抱えていたため、由紀子の弟・都築潤(松田優作)は結城に激しく憎悪する。研究所の開設パーティーに妻・妙子(小山明子)を伴って出席した結城だったが、妙子に1本の電話が入り会場から失踪。その後、妙子はとあるモーテルで無惨な遺体となって発見された。結城は、親友である検事の柳田勇作(佐藤允)、研究室の助手・園田京子(中野良子)の協力を得て真犯人を追う。だが、その過程で明子は自らの出生の秘密、潤は結城家に起った事件に自らの運命を狂わせていくのだった...
■セリフのわずか数秒の場面で、優作は視聴者をくぎ付けにしてしまう

数奇な運命に弄ばれて苦悩する宇津井健の渋さもさることながら、やはり松田優作の演技が際立っている。工事現場で働きながら、狭いアパートでひとり暮らしをしている潤。ある日、縁日で買ってきたような金魚を丼に入れて飼う。無言で金魚に餌を与えながら微かに笑う潤。その間、一言のセリフもないが、わずか数秒の場面で彼の抱える虚無感をすべて表現してしまう。
この後、彼を妙子殺しの犯人と疑う刑事がアパートにやってきて、反抗した潤は逮捕されてしまう。刑事ともみ合う中で、丼が割れて金魚が死んでしまうのだが、悶絶する金魚を見やる潤の瞳の暗さと悲しさ...。松田優作はやはり只者ではない。冒頭で既にインパクト抜群で登場するだけに、この後もストーリーに絡み、百恵演じる結城明子に向ける眼差しの優しさの一方で、お得意の激しいアクションシーンもこなす。ボソボソとつぶやくように放つ個性的なセリフ回しは、ジーパン刑事同様で優作の持ち味でもあるが、感心してしまうのは、セリフが極めて聞き取りやすいことだ。ボソボソと喋っているのに、聞きやすいのは考えてみれば珍しい。
■ヒロインを演じる中野良子の美しさにも魅了される
本作では、まだ高校生だった山口百恵の初々しさも魅力ではあるが、本作でヒロインの役目を果たしているのは、園田京子役の中野良子である。
中野は当時24歳。NHKの時代劇「天下御免」でヒロイン役を演じて人気が高まっていたが、本作での美しさは、まさに息をのむほど。結城を慕い、懸命に彼を支えるが、次第に危険な魅力を持つ潤に恋心を抱くようになる。潤と京子の場面は、まさに大人の恋模様という感じで、極めて印象的だ。
チリアーノが歌う挿入歌の「去り行く今」が、2人の場面で特に印象的に使われていて、素敵な演出がされている。心に葛藤を抱えながら、犯人を追うために結城と共闘、独自の嗅覚から真犯人に目星をつけて独自に迫っていく行動力など、潤はひたすらカッコいい。
明子の出生の秘密に翻弄される結城が、ひたすら苦悩ばかりしていて、なかなか活躍できないもどかしさもあるせいか、当時小学生だった筆者の周囲では、本作の話題は優作と中野良子のことばかりだった。

ドラマの後半では潤の"退場劇"が描かれることになるが、ジーパン刑事殉職と並び、優作史上、いや日本ドラマ史上でも屈指の名場面になっている。
松田優作の途中退場は残念ではあるが、終盤でストーリーは激しく動き、真犯人が判明して以降も、明子を中心とする血縁関係のドロドロが最後まで展開する。昭和ドラマには欠かせない長山藍子をはじめ、しかめっ面が印象深い佐藤允も存在感抜群。
スナックの店主・村井を演じる大石悟郎、その友人のカメラマン・三崎役の山本紀彦も好演。山本と言えば、「水もれ甲介」など、石立鉄夫作品の名脇役だが、刑事ドラマの常連でもあり、悪役にも定評がある。さらに、結城と大学で対立する大山教授役の高橋昌也も絶品。劇団四季、文学座、演劇集団円を渡り歩いた舞台演劇界の重鎮だが、本作でも重厚な演技で迫力があり、終盤では非常に重要な見せ場も待っている。
TBSチャンネル2で放送される「赤い迷路」は、三浦友和が登場しないこともあり、赤いシリーズの中では語られることが少ないように思う。しかし、前述したように松田優作が出演していることだけでも価値が高い。彼の魅力に牽引されるかのように、中野良子の魅力も全開で、彼女にとっても欠かせない代表作となった。宇津井健や山口百恵にあまり言及していないので、2人のファンには申し訳ないが、もちろん2人とも好演している。それでも、松田優作の演技力と存在感があまりに際立っているという事実にこそ注目して、あらためて見てほしい作品であることを強く主張しておきたい。
文=渡辺敏樹
放送情報【スカパー!】
赤い迷路
放送日時:2025年8月9日(土)4:00~
放送チャンネル:TBSチャンネル2 名作ドラマ・スポーツ・アニメ
※放送スケジュールは変更になる場合があります。
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