戸田恵梨香の鬼気迫る演技...母性に狂わされた女性を熱演した湊かなえ原作「母性」
大ヒットとなった映画「告白」の原作者としてもおなじみのベストセラー作家、湊かなえの原作を、戸田恵梨香と永野芽郁で映像化したのが「母性」だ。
湊が「これが書けたら作家を辞めてもいい」という覚悟で書き上げたミステリー小説(2012年)をもとにメガホンをとったのは「余命1ヶ月の花嫁」、「軽蔑」などの廣木隆一。"母性"をテーマに、すれ違っていく想いを母と娘のそれぞれの視点を通して描いた。
本作で戸田が演じているのは大らかで愛情深い母(大地真央)に育てられ、親離れできなかったお嬢様育ちのルミ子。実力派女優として評価されている戸田は2019年に「連続テレビ小説 スカーレット」に女性陶芸家役として主演、松下洸平と夫婦役で共演し、その波乱万丈な人生を50代まで演じきった。
本作のオファーを受けた時に32歳だった戸田は、母性を感じられないまま娘の清佳(永野)を育てていくルミ子役は年齢的にも役柄的にも挑戦だったと語っていたが、その重圧をはねのける鬼気迫る演技を見せた。ここでは戸田演じるルミ子に焦点を当ててみたい。
■少女のまま、母になったルミ子の歪みと葛藤を戸田がリアルに表現
©2012湊かなえ/新潮社 ©2022映画「母性」製作委員会
愛し、肯定してくれる母(大地)はルミ子にとって絶対的な存在。夫の田所(三浦誠己)と結婚したのも、絵画教室に通っていた時に母が田所の絵を絶賛したことが、一番の理由だった。
やがて、二人は自然に囲まれた美しい家で暮らすようになり、ルミ子は妊娠。出産し、子育てをすることに怖いという感情しか持てない中、新しい生命の誕生を手放しで喜ぶ母の笑顔に背中を押される。ルミ子が母に守られ、強い影響を受けて生きてきたことを感じさせるのが、褒められた時に見せる嬉しそうな顔だ。戸田はそんなルミ子を少女のような笑顔のみならず、その裏に潜む危うさまで表現してみせる。母と厳格な義母(高畑淳子)の気持ちを汲み取れるようにしつけてきた娘が保育園に入って、欲しいものを母にねだった時に戸田が見せる引きつった表情もルミ子の歪みを物語る。
■襲いかかる悲劇。擦り切れていくルミ子の変貌に目を見張る
©2012湊かなえ/新潮社 ©2022映画「母性」製作委員会
夫は蚊帳の外で、母を中心とした生活は脆くも崩れ去り、一家は義母の家の離れを借りて生活するようになる。朝から晩まで働き、義母の嫌味に耐え続けるルミ子にかつての輝きはなく、何を言われても逆らわない母に高校生になった清佳は苛立ちを覚えるようになる。
逆境の中にあっても母の教えを守って生きていくルミ子を、戸田は別人のようにやつれ、今にも崩れ落ちそうな空気感で演じている。切ないのは母の愛を注がれずに育った清佳もまた、ルミ子に褒められた時に報われたような笑顔を浮かべることだ。
愛せない母親と愛されたかった娘。二人の告白が事件の真相へと迫っていく衝撃の結末と、"母性とは何か"を問いかける本作。難役に挑んだ戸田の演技にゾクゾクさせられる。
文=山本弘子
放送情報【スカパー!】
母性
放送日時:2025年11月15日(土)21:00~
放送チャンネル:映画・チャンネルNECO
出演:戸田恵梨香、永野芽郁、三浦誠己、中村ゆり、高畑淳子、大地真央
※放送スケジュールは変更になる場合があります。
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