堺雅人と仲間由紀恵が温かな愛情を注ぎ合う夫婦を体現!加賀藩に仕えた御算用者・猪山直之の生きざまを描く「武士の家計簿」
 
		天保年間から金沢の加賀藩に仕えた"御算用者(会計係)"の猪山直之が残した日記や家計簿をもとに、当時の生活や生きざまを鮮明に現代に蘇らせた映画「武士の家計簿」(2010年公開)。直之と妻・お駒の心温まる夫婦の姿をスクリーンに描き出した良作だった。
物語の中心となる猪山直之役は堺雅人が務めた。猪山家は代々、加賀家の財政に関わる家柄で、直之は8代目となる。もう1人の主演は仲間由紀恵で、妻のお駒を演じている。直之が通う道場の師範代を務める同心・西永与三八の娘で、何があっても笑顔で、健気に直之を支える。
■猪山直之の人生を物語の中で積み上げていく堺雅人の演技に注目
 
 (C)2003 磯田道史/新潮社 (C)2010「武士の家計簿」製作委員会
直之は幼い頃から計算が得意で、"算盤バカ"と呼ばれるほど仕事に熱心な青年。真面目な性格で、間違いを見つければ即座に上司に報告し、給金を両親に渡す時も背筋を伸ばして丁寧に礼をする。その一方で、道場で与三八に圧倒されて無様に尻もちをついたり、握り飯を頬張っていた時には初対面したお駒の前でむせてしまったりと、ちょっと抜けている面もある。言ってみれば直之は、真っすぐすぎて不器用で、それ故に親しみを覚える男なのだ。そんな直之の人間味を、堺は演技でしっかり伝えている。
物語が進むと、直之の人生にさまざまな変化が起こる。民への施しであるお救い米の計算が合わなかったため独自に調査を始めたり、猪山家に多額の借金があることを知ると、家財を売払い、倹約するよう家族を説得したり。そういった時の直之の決断は早く、揺るぎない。それは直之が正しいと思うことに邁進しているからであり、熱のある姿には胸を打たれるし、芯の強さが滲み出る直之の姿を、堺は印象的に演じている。
圧巻なのは父・信之が亡くなった後、葬式費用を計算している時に、息子・直吉の問いかけに静かに答えるシーンだ。その一言に、猪山家に生まれた運命や、直之自身の人生が籠められているように思う。それは堺が直之という人物を作り上げ、物語の中で直之の人生をしっかり積み上げてきたからなのだろう。
■愛情溢れる妻・お駒を温かな雰囲気で演じた仲間由紀恵
 
 (C)2003 磯田道史/新潮社 (C)2010「武士の家計簿」製作委員会
お駒が物語に登場するのは、与三八に呼ばれ家の縁側に出た時で、直後、与三八から縁談の話が飛び出す。相手が算盤バカだと言われた時の困ったような、でも興味がありそうな様子は絶妙で、つい表情の変化に魅入ってしまう。
お駒は思っていることをあまり口にはしないが、その表情でしっかりと心情を伝えてくれる。川辺で出会った侍が縁談相手の直之と知った時の驚いた顔は、その奥で感情が動いている印象を受ける。結婚し、子供が生まれた後、直之から能登に異動となることを伝えられた時には、しっかりしたまなざしと引き結んだ口元に、現実を受け入れる決意が感じられる。
借金返済のために倹約するようになってからも、食材を工夫して美味しいものを作るなど、かいがいしく直之を支える。何があっても笑顔で直之に寄り添うその姿には温かな愛情が感じられるし、お駒を魅力的に演じた仲間の演技もさすがというほかない。
 
 (C)2003 磯田道史/新潮社 (C)2010「武士の家計簿」製作委員会
そんなお駒も、感情をさらけ出すことがある。息子・直吉(後に成之と改名)の身に問題が降り掛かった時だ。直之の言いつけで夜分に1人で外に出された時や、成長し、加賀藩の兵として出征した成之が亡くなったらしいとの知らせが届いた時には、涙ながらに自らの想いを直之に訴える。普段つつましいがゆえに、堰を切ったように息子への想いを吐露するお駒の姿には、心が揺さぶられる。
静かで熱のある直之、温かな愛情を持つお駒。そんな2人が仲睦まじく過ごすシーンも随所にある。婚儀の後にお駒が直之をからかったり、お祭りでお駒のために直之が櫛を買ったり。笑顔の2人を見ていて心が和むのは、愛し合い、支え合う2人の気持ちを堺と仲間がしっかりと体現しているからだろう。
お互いと家族を想いながら激動の時代を生き抜いた、心温まる夫婦の物語を、堺と仲間の名演を味わいつつ、ぜひ最後まで見届けてほしい作品だ。
文=堀慎二郎
放送情報【スカパー!】
武士の家計簿
放送日時:2025年11月29日(土)18:30~
チャンネル:WOWOWプラス 映画・ドラマ・スポーツ・音楽
※放送スケジュールは変更になる場合がございます
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