豊川悦司が放つ、妖艶さと不気味さ...内に秘める"悪"の表現が秀逸な「松本清張サスペンス わるいやつら」
豊川悦司主演のスペシャルドラマ「松本清張サスペンス わるいやつら」が、チャンネル銀河で放送される。松本清張の傑作サスペンスは時代を超えて人々を魅了し続け、中でも人間の欲望と野心が織りなす愛憎劇の極致として知られる「わるいやつら」。豊川が持つ「妖艶さ」と「狂気」を見事に融合させ、清張作品の持つ暗黒の美学を現代に蘇らせた傑作である。
豊川が演じる戸谷信一は、大病院の二代目院長という社会的地位を持つエリート医師である。しかし、その仮面の下には、自身の欲望のためなら他者を平気で踏みにじる、冷酷非道な殺人鬼としての素顔が隠されている。
■豊川演じる戸谷が放つ、危険でも色気たっぷりな魅力
豊川の作り上げた戸谷は、単なる悪人ではない。ミステリアスでとにかく色気が抜群なのだ。彼特有のアンニュイな雰囲気と、物憂げな眼差し、そして長い指先まで神経の通った佇まいが、戸谷の持つ危険なオーラを形作っている。彼が出会う女性たちが、戸谷の正体を知りながらも、あるいは知らず知らずのうちに、その魅力に抗えずに魅了されてしまうのも当然だと思えるほどに、豊川悦司の「色気」は説得力を持っている。
物語は戸谷が抱える窮地から始まる。医師としての腕は確かであり、赤字続きだった病院を見事に一人で立て直した経営手腕も持っている。だが、家庭生活は冷え切っていた。妻・慶子(杉本彩)は、戸谷に1億円の慰謝料を要求し、病院を譲ることを離婚の条件として言い渡す。
院長という地位はあっても、1億円もの大金は戸谷の手元にはない。自身が築き上げた病院を手放したくないという「強欲」が、彼を恐ろしい計画へと駆り立てる。その計画は、彼の知性と冷徹さによって一見完璧に見える。彼は、自身を愛する女性たちを利用し、金と名誉、そして自由を手に入れようとするのだった...。
■豊川版の「わるいやつら」は愛憎の連鎖とサスペンスをスタイリッシュに描き出す
しかし、清張サスペンスの真骨頂は、悪事が露呈する過程にある。戸谷が巧妙に張り巡らせた蜘蛛の糸は、愛人たちとの愛憎劇の中で、予期せぬほつれを生み出す。アッと驚く展開の連続、そして戸谷を陥れようとする新たな「罠」や彼の犯行を執念深く追う刑事の存在が、物語に緊張感を与えていく。
何度もリメイクされてきた「わるいやつら」だが、豊川版の本作は、この愛憎の連鎖とサスペンスの構造を、極めてスタイリッシュに描き出している。豊川は戸谷信一の冷酷非道な本質を、大仰な演技で表現しない。むしろ、その逆。
豊川が演じる戸谷は、常に「物静か」で、一見すると善良な人間に見える。しかし、その「物静かさ」の奥には、病院という大きな権力を手放したくない「強欲な男」のマグマのような情念が煮えたぎっているのだ。豊川悦司は、この内面に秘めた「悪」を、目の動き一つ、口元の微かな笑み一つで表現する。彼の視線は、愛する女性を見つめているようで、実はその先に金銭や計画の進行度を見ている。この「二層構造」の演技こそが、豊川版戸谷信一の最大の魅力である。
特に秀逸なのは、「妖艶さ」と「不気味さ」が紙一重であることを体現している点だ。彼の持つ特有の色気は、女性を惹きつけると同時に、「この人には絶対に関わってはいけない」という本能的な警鐘を鳴らす。豊川悦司は、清張の描く悪の深淵を、色気という最も魅力的で、最も危険なフィルターを通して映し出したのだ。「悪の表現」の極致...彼の演技が作り出す、静かで、だが激しいサスペンスをぜひ堪能してほしい。
文=石塚ともか
放送情報【スカパー!】
松本清張サスペンス わるいやつら
放送日時:2025年12月21日(日)7:30~
放送チャンネル:チャンネル銀河 歴史ドラマ・サスペンス・日本のうた(スカパー!)
出演:豊川悦司、萬田久子、内藤剛志、藤真利子、広岡由里子、杉本彩、岡本信人、吉田次昭、ルー大柴、十朱幸代 ほか
※放送スケジュールは変更になる場合があります。
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