佐藤浩市&天海祐希、名優2人の繊細な演技が役柄にリアリティを持たせる「Aではない君と」
ドラマから映画までさまざまな作品に出演し、それぞれの作品で存在感を残し続ける俳優・佐藤浩市。一方、宝塚歌劇団のトップスターとして活躍し、退団後も、観る者の目を引くオーラと強い女性像の中に垣間見えるチャーミングさで多くの人々を魅了している俳優・天海祐希。両者共に、主演から助演まで垣根なく活躍し続けている日本を代表する"名優"だ。
そんな2人の共演作といえばドラマ「Aではない君と」(2018年、テレビ東京系)だろう。同作は、薬丸岳による第37回吉川英治文学新人賞を受賞した同名小説を、テレビ東京開局55周年特別企画ドラマスペシャルとして映像化したもので、「自分の子供が殺人の罪に問われた時に、どう向き合うか」をテーマに描かれる本格ヒューマン・サスペンス大作。2026年1月4日(日)に日本映画専門チャンネルで放送される。
大手建設会社に勤める吉永圭一(佐藤)に、離婚してから離れて暮らしている中学2年生の息子・青葉翼(杉田雷麟)が同級生への殺人容疑で逮捕されたと連絡が入る。ネットに翼の実名や個人情報がさらされ、困惑した圭一は弁護士・長戸光孝(八嶋智人)を訪ねる。長戸は早速接見するも、翼は沈黙を貫き通す。
その後、圭一にも心の内を明かさない翼の沈黙が災いし、公開の法廷で刑事審判を受ける"逆送"の可能性が高まっていく。そんな現状を打破すべく、長戸は"お母さん弁護士"・神崎京子(天海)を圭一に紹介。京子は献身的に圭一親子に向き合うが、翼に変化はない。やがて京子は、保護者が弁護士同様の立場となる「付添人制度」の存在を知り、圭一に付添人になるよう提案する、というストーリー。
愛するわが子が殺人容疑で逮捕されるという悲劇に振り回される父親を軸に展開されるヒューマンドラマなのだが、「父親にも真相を話そうとしない息子」「調べていくにつれて明かされていく知られざる息子の境遇」など、動機やバックボーンがひもとかれていくにつれて事件の真相が明らかになっていくサスペンス要素が、一層視聴者を惹きつけるトリガーとなっており、"自分事として考えさせられる"一面と"他人事として物語の展開が気になる"一面が絶妙なバランスで混ざり合った珠玉のエンターテインメント作品となっている。
■佐藤浩市は苦悩と葛藤を抱える父親をリアリティたっぷりに演じる
そんな作品の魅力を最大限に引き出しているのが、俳優たちの名演技だ。主演の佐藤は一人息子が起こした事件に翻弄されていくエリートサラリーマンを演じているのだが、「息子は本当に人を殺したのか?」「思春期な上にたまにしか会っていなかった息子の心が分からない」「どうして何も話してくれないのか」「息子の犯した罪とは」という親としてのさまざまな思いはもちろん、会社での立場やマスコミに追われる犯罪者の親としての立場、交際相手との関係など、一人の人間としての苦悩や葛藤という側面も繊細に演じており、そのリアリティが観る者を没入させていく。
■愛情たっぷりに親子に接する天海祐希の温かい演技にも注目
一方の天海は、前任者の長戸から引き継ぐかたちで根気強く親子に寄り添い、圭一の最大の理解者として事件の真相に向き合っていく弁護士役を熱演。数々の連続ドラマで演じているような"勝気なキャリアウーマン"という役柄ではなく、母親としての愛情にあふれた"お母さん弁護士"として、時に周りが見えなくなってしまう圭一をいさめながら、献身的にバックアップしていく温かいキャラクターを演じている。
特に、圭一に法律的な見識を説明する場面におけるビジネス的ではなく本心から圭一親子に寄り添う姿勢を表す演技は圧巻。困惑する圭一を落ち着かせるように、圭一の目を見ながら若干ゆっくりとした口調で手振りを交えて説明していくのだが、ふと身を任せてしまいたくなるような包容力を感じさせる。
また、随所に垣間見える少年犯罪しか扱わない京子の過去までも背負いながら魅せる演技の深みは、京子目線での別のドラマも描けそうなほどディティールに凝っており、まさに"名演"といえる。
ラストに明かされる驚きの事件の真相と、その真相によって突き付けられる視聴者への"問い"に向き合いつつ、事件の真実を追うそれぞれの役の人間性を表現した佐藤と天海の"名演"に注目してみてほしい。
文=原田健
放送情報【スカパー!】
Aではない君と
放送日時:2026年1月4日(日)10:00~ほか
放送チャンネル:日本映画専門チャンネル(スカパー!)
出演:佐藤浩市/天海祐希/杉田雷麟/戸田菜穂/市川実日子/山本耕史/八嶋智人/寺島進/安田顕/仲村トオル/山﨑努
※放送スケジュールは変更になる場合があります。
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