「警視庁ゼロ係」はなぜ今も愛される? 小泉孝太郎と松下由樹の"迷コンビ"が愛される理由
2016年にスタートした「警視庁ゼロ係~生活安全課なんでも相談室~」は、"空気は読めないが事件は読める"キャリア警視と、"口は悪いが情に厚い"ベテラン刑事の凸凹コンビを軸にした刑事ドラマだ。杉並中央署の"なんでも相談室"に集められた、いわば行き場を失った人材たちが、厄介ごとを引き受けながら難事件に挑んでいく。コミカルな掛け合いと人情味、そして骨太な事件パートのバランスで支持を集め、2024年の「警視庁ゼロ係~スカイフライヤーズ~」まで続く人気シリーズとなった。
小泉孝太郎が演じる小早川冬彦は、よくある"型破りな刑事"とは少し違う。頭は切れるし、言っていることも間違っていない。けれど、その正しさが周囲の気持ちや現場の空気とかみ合わず、結果的に場をかき乱してしまう人物だ。第1作で小泉は、そんな冬彦のズレを大げさに見せるのではなく、あくまで穏やかで品のある雰囲気のまま表現していた。落ち着いた口調で核心を突き、悪気なく周囲を振り回す。だから冬彦は嫌な人には見えず、むしろ厄介なのに妙に憎めない。そこがこのキャラクターの大きな魅力だった。
近年の小泉には、ドラマで見せる端正さだけでなく、情報番組で感じさせる親しみやすさもある。そうした印象を踏まえて「警視庁ゼロ係」を振り返ると、冬彦という役の面白さがより分かりやすい。穏やかで感じのいい人物に見えるのに、気づけば周囲の空気を外している。そのギャップが、冬彦をただの変わり者ではない、印象に残るキャラクターにしていた。小泉の持つやわらかい雰囲気があったからこそ、冬彦のズレも嫌味にならず、このシリーズならではの魅力につながっていた。
一方、松下由樹が演じる寺田寅三は、冬彦に振り回される役どころでありながら、作品をしっかり支える存在だ。現場叩き上げで気が強く、口も悪い。第1作では怒る場面も多いが、その怒りは単なるツッコミではない。現場で積み重ねてきた経験や責任感がにじんでいて、簡単には人を見捨てない優しさも感じさせる。松下はその感情を、声の強さだけでなく、目線や間の取り方で丁寧に見せていた。だからこそこの作品は、コミカルなやりとりがありながらも、人間ドラマとしての厚みをしっかり保っていた。
松下は2025年の「ディアマイベイビー~私があなたを支配するまで~」で、愛情深さと危うさが隣り合うベテランマネージャーを演じ、強い印象を残した。相手を包み込むように見えながら、少しずつ追い詰めてもいく。その芝居を見たあとで「警視庁ゼロ係」の寅三を振り返ると、松下がこの頃から、強さ、怖さ、温かさをひとつの役の中で自然に行き来していたことがよく分かる。今の活躍を踏まえて見ることで、寅三というキャラクターの奥行きもいっそう伝わってくる。
シリーズが続くにつれて、2人の関係にも少しずつ変化が表れていく。第1作では、冬彦が自由に動き、寅三がそれに振り回される構図がはっきりしていた。だが、回を重ねるごとに、ただ噛み合わないだけではない関係に見えてくる。冬彦は寅三の怒りの裏にある責任感やまっすぐさを分かっているし、寅三もまた、冬彦の突飛な言動の奥にある誠実さを感じ取っている。相変わらずぶつかり合いながらも、いざという時には同じ方向を向く。その積み重ねが、このシリーズならではの魅力になっていった。
そして2024年の「警視庁ゼロ係〜スカイフライヤーズ〜」では、そうした積み重ねがよりはっきり見えていた。舞台は"なんでも相談室"から警視庁の特命捜査対策室へと変わるが、冬彦と寅三の関係は変わらない。むしろ、これまで何度も同じようなやり取りを重ねてきたからこそ、2人の関係がより自然で深いものになっているように見える。小泉の冬彦は、最新作ではもう"変わった人物"であることを強く説明しなくても、その人物像が自然に伝わる。立ち姿や話し方、ひと言の返しだけで、冬彦らしいズレや頭の回転の速さがしっかり見えてくるからだ。一方の松下も、怒ったり呆れたりしながら、ただ振り回されるだけではなく、冬彦のことをきちんと理解したうえで受け止めているように映る。「警視庁ゼロ係〜スカイフライヤーズ〜」には、長くシリーズを続けてきた2人だからこそ出せる空気があった。
「警視庁ゼロ係」シリーズは、事件の面白さやテンポの良いやり取りを楽しめる作品でありながら、小泉と松下が長い時間をかけてコンビの関係を深めてきたシリーズでもある。第1作では、まだどこか噛み合いきらない面白さがあり、「警視庁ゼロ係〜スカイフライヤーズ〜」では、言葉にしなくても通じるような呼吸が生まれていた。いまの小泉を見ていると、冬彦という役が、彼の穏やかさや品のよさだけではない魅力を広げた役だったことがよく分かる。やわらかな雰囲気を持つ人だからこそ、その人物が少しだけ場の空気を外すことで、冬彦というキャラクターの面白さが際立つ。一方の松下にとっても、寅三は、強さと厳しさ、そして人を見捨てない温かさをあわせ持つ芝居の魅力が早い段階からよく表れていた役だった。
だから「警視庁ゼロ係」シリーズは、いま振り返るとさらに面白い。事件の謎解きや掛け合いの楽しさだけでなく、その奥には、小泉と松下が時間をかけて"迷コンビ"の関係を育ててきた積み重ねも感じられる。「警視庁ゼロ係〜生活安全課なんでも相談室〜」から「警視庁ゼロ係〜スカイフライヤーズ〜」までをたどることで、このシリーズが長く愛されてきた理由も、よりはっきり見えてくるはずだ。
文=川崎龍也
放送情報【スカパー!】
「警視庁ゼロ係~スカイフライヤーズ~」
放送日時:2026年5月24日(日) 11:30~
チャンネル:チャンネル銀河 歴史ドラマ・サスペンス・日本のうた(スカパー!)
※放送スケジュールは変更になる場合がございます
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