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坂本龍一が『ラストエンペラー』で刻んだ映画音楽家としての転機 壮大な旋律に宿る溥儀の孤独

2026/10/29

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『ラストエンペラー 劇場公開版 4Kレストア』
『ラストエンペラー 劇場公開版 4Kレストア』

坂本龍一が音楽を手がけ、俳優としても出演したベルナルド・ベルトルッチ監督作『ラストエンペラー』。その劇場公開版を4Kレストアした『ラストエンペラー 劇場公開版 4Kレストア』が、11月3日(火)にザ・シネマで放送される。

本作は、中国・清朝最後の皇帝となった愛新覚羅溥儀の生涯を描いた歴史大作。幼くして皇帝となり、やがて清朝の崩壊、満州国皇帝への即位、戦後の収容所生活まで、激動の時代に翻弄された一人の人間を追っていく。1988年の第60回アカデミー賞では作品賞、監督賞をはじめ9部門を受賞。坂本もデヴィッド・バーン、スー・ソンとともに作曲賞に輝いた。

坂本龍一が音楽と演技の両面で存在感を放つ歴史大作『ラストエンペラー 劇場公開版 4Kレストア』
坂本龍一が音楽と演技の両面で存在感を放つ歴史大作『ラストエンペラー 劇場公開版 4Kレストア』

(c)Recorded Picture Company

いまや坂本龍一を語るうえで欠かせない『ラストエンペラー』だが、もともと彼が参加したのは音楽家としてではなかった。ベルトルッチから最初に持ちかけられたのは、甘粕正彦役での出演。この時点では音楽を担当する話はなく、作曲を依頼されたのは撮影を終えた後だった。

坂本は1983年公開の大島渚監督作『戦場のメリークリスマス』でもヨノイ大尉を演じ、同作で初めて映画音楽を手がけている。YELLOW MAGIC ORCHESTRAのメンバーとしてすでに世界的な評価を得ていたものの、映画音楽家としてのキャリアはまだ始まったばかり。そんな坂本にとって、『ラストエンペラー』はその後の活動を大きく広げる転機となった作品だ。

しかし、作曲を引き受けた坂本を待っていたのは、過酷な制作スケジュールだった。それでも、完成した音楽からは制作期間の短さを感じさせない。壮大な映像に寄り添いながら、物語の世界観をより鮮明に描き出し、『ラストエンペラー』という作品を印象づける重要な役割を果たしている。

特に印象的なのは、東洋的な響きと西洋的なオーケストレーションを巧みに融合させている点だ。中国を舞台にした作品でありながら、伝統的な楽器や旋律によって異国情緒を演出するだけではなく、壮大なオーケストラの響きを重ねることで、物語にさらなる広がりを与えている。異なる音楽の要素が自然に溶け合い、時代や国境を超えて観る者の感情に訴えかけてくるのだ。

『ラストエンペラー 劇場公開版 4Kレストア』
『ラストエンペラー 劇場公開版 4Kレストア』

(c)Recorded Picture Company

一方で、坂本の音楽は壮大なスケール感を持ちながら、どこか物悲しさも感じさせる。それは、主人公・溥儀の数奇な人生とも重なっている。

溥儀は皇帝でありながら、決して自由ではない。幼くして周囲から「皇帝」と呼ばれ、広大な紫禁城の中心に立ちながら、自分の人生を自分で選ぶことができない。その後も時代や政治に翻弄され続ける彼の人生は、一見すると華やかな歴史絵巻のようでいて、実際には孤独の連続でもある。

そうした溥儀の複雑な心情を、坂本は音楽によって巧みに表現している。荘厳なオーケストラの響きが皇帝としての威厳を際立たせる一方で、その旋律にはどこか切なさが漂う。華やかな宮廷の風景を彩るだけでなく、その裏側にある一人の人間としての感情まで浮かび上がらせているのだ。

坂本は映画音楽について、映像に寄り添いながら登場人物の心理を表現することの重要性をたびたび語っている。『ラストエンペラー』もまさにそうだ。音楽単体で聴けば美しい。だが映画の中で流れることで、その旋律は溥儀の感情や、彼を押し流していく時代の大きさまで感じさせる。坂本の音楽によって、歴史上の人物だった溥儀が一人の人間としてこちらに近づいてくるのだ。

また、本作ではスクリーンに映る坂本の姿も見逃せない。演じた甘粕は、満州国の建国や映画会社・満映に深く関わった人物。坂本は多くを語らず、硬質な佇まいでその存在感を示している。『戦場のメリークリスマス』でもそうだったが、坂本にはどこか近寄りがたく、それでいて目を離せなくなる独特の華がある。音楽家として映画を支えながら、その映画の登場人物として画面の中にもいる。この不思議な二重性も、『ラストエンペラー』における坂本龍一の面白さだろう。

『ラストエンペラー 劇場公開版 4Kレストア』
『ラストエンペラー 劇場公開版 4Kレストア』

(c)Recorded Picture Company

本作でアカデミー作曲賞を受賞した坂本は、その後も『シェルタリング・スカイ』『リトル・ブッダ』でベルトルッチ監督とタッグを組み、『レヴェナント:蘇えりし者』や『怒り』『怪物』など、国内外の数多くの映画で音楽を手がけていく。そう考えると、『ラストエンペラー』は単なる代表作の一つではなく、坂本が映画音楽家として国際的な評価を確立し、その後の活動の幅を広げていく大きな転機となった作品だ。

4Kレストアによって蘇る紫禁城の鮮烈な色彩や圧倒的なスケールはもちろん見どころだが、改めて注目したいのは、その映像の裏側で鳴っている坂本の音だ。豪華絢爛な歴史の中から、一人の人間の孤独をすくい上げる。その旋律に耳を傾けることで、『ラストエンペラー』という映画はまた違った表情を見せてくれるはずだ。

文=川崎龍也

放送情報【スカパー!】

ラストエンペラー 劇場公開版 4Kレストア[字]
放送日時:2026年11月3日(火)15:30~ほか
チャンネル:ザ・シネマ(スカパー!)
※放送スケジュールは変更になる場合があります

詳しくは
こちら

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